幸福な家庭のシンボル、Wiiの失速に思う
- Day:2009.07.31 00:40
- Cat:ゲーム
東野圭吾の『容疑者Xの献身』。
小説も好きだが、映画も好きだ。
映画のラストシーンに、石神哲哉(堤真一)のナレーションが入る。
真相を聞いているだけでも泣けるのに、彼が恋した花岡靖子(松雪泰子)に「幸せであってほしい」と願うセリフの背景で、任天堂のWiiが写る。花岡靖子は、娘と楽しそうに『Wii Sports』やっている。このシーンがまた涙をそそる。
テレビゲームの存在がバッシングされることは、しばしばあった。学校を卒業して以来、ずっとゲーム業界に身を置いてきた私は、肩身が狭い思いをすることは、慣れっこになっていた。『ゲーム脳の恐怖』などという本が出版されたのは、02年のことだった。21世紀になっても、まだそんなことを言っている人がいた。
苦い思い出の積み重ねがあるからだろう。
ほんの数秒間だが、幸福な家族の光景のシンボルとしてWiiが写ったことは、ストーリーとは、また別の感動となって、体内に熱い感動がこみ上げてきた。Wiiの開発にたずさわった方々は、『容疑者Xの献身』のラストシーンをご覧になったら、きっと同じように思われるのではないだろうか。
ところで……
任天堂の今四半期決算が発表された。
昨日のエントリーに書いたように、本発表を特別に注目していた。
数字が良くないのは、予想がついた。
しかし、経常利益が63.4%減少。そこまで悪いとは思っていなかった。
今日の株価は……これも昨日書いたように、証券アナリストの方たちに分析はお任せしよう。
私が目を疑い、良くないと思ったのはWiiの販売台数だ。
4-6月で21万台しか売れていない。
クリスマスシーズンとはいえ、昨年の10-12月には200万台近く売れていたのに、である。
大阪市内で会見した岩田聡社長は「私たちは必ずしも四半期ごとにヒットソフトを順番に当てはめていく考えではなく、通期でどのようにビジネスを最大にしていくかという観点でビジネスを展開している」と強調した(ロイターより)。
確かにおっしゃる通りだろう。だが、プロゲーマーでプロ経営者である岩田社長は、この数字はソフトに左右された変動値でも、季節要因でもなく、最悪のケースもありうることを想定なさっていても、おかしくない。
私は過去に、体感ゲームのブームは、短命になる傾向があることを書いた。
現時点のWiiは、この問題を根本的に克服していない。
最悪とは、製品ライフサイクルにおけるWiiの普及期は終わり、衰退期へ突入した、という意味である。
それと、もうひとつ気になるのは利用者像である。
Wiiは、両親とふたりの子どもがいる一家を想定してつくられたハード……の匂いがする。
富士には月見草がよく似合うなら、Wiiには4人家族がよく似合う。
まさに、家族団らんのためのハードだ。
ひとりで遊ぶ『Wii Fit』や『Wii Sports』は、どんなにソフトがよくできていても、そういうことをしている自分が虚しくなるものだ。
統計は古くなって平成17年のデータになるが、国勢調査で「世帯の状況」を調べると、(私の独断かもしれないが)Wiiがよく似合う4人世帯は、全体の15%しかなかった。

そして、最も多い「世帯人員ひとり」を、Wiiというハードは、取り逃がしているように思える。
これまた昨日のエントリーの延長のようになるが、「有力タイトルの投入」といった、いかにもゲーム業界らしい文脈ではなく、「世帯の状況」という社会情勢と照らし合わせることによって、Wiiの次なる突破口があるのではないだろうか。
Wiiの普及が、急ブレーキをかけたかのように止まったのは、なんだかWiiが似合う幸福な家庭が少なくなってしまったような現実? 錯覚? を感じた7月最後の日であった。