話をまとめます。
私が『ドラクエ9』をはじめたのは、先週の土曜日からだった。
過去3回のエントリーで批判的なことを書いているが、私自身、かなり楽しんでプレイしていた。
正直な感想として、生まれてはじめて『ドラゴンクエスト』をやったときの興奮と、同じものがあるかというと、そうではなかった。覚めてプレイしていた。覚めてはいたが、売れている本数が多いというのはすごいことで、すれちがい通信は嬉々として楽しんでいた。
ところが、何人からの知らせで「『ドラクエ9』がアマゾンで酷評されている」と聞いた。
実際にそうであり、このことを報道したサイトもあった。
その時にピンと来たのが、可愛さ余って憎さ百倍という言葉だった。
ここは正式名称で書く。『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』は、たくさん……それこそ何百万人のユーザーから、強い信頼、愛情、尊敬の念を一心に集めていた。だが、その期待を少しでも裏切ると、反動が起きる。まさに人間心理の問題がそこに横たわっていると思ったのだ。
「こういう場合に、星1つつけるのはよくありません。他のゲームと比較してみてください。はるかに良くできているでしょう。でも、星5つでないお気持ちはよくわかります。せめて星4つか3つにしてはいかがですか?」といった論理的な話をしても無意味だ。
論理ではないのだ。
心理なのだ。
レビューをしたいのではない。
愛するがゆえの憎さ百倍を、表現したい人がいるのだ。
その心のぶつけどころが、星1つになったのだと思った。
さらに、ここでまた心理学的な問題にぶつかる。
あるユーザーが、可愛さ余って憎さ百倍の心理で、アマゾンの『ドラクエ9』のページを見たとしよう。
その人物は「少し辛い点数をつけようかな」程度に思っていたとする。
だが、過去の様子を見ると、圧倒的に多いのは星1つ、である。
すると、人は皆と同じことをするのが安全という心理が働く。
専門用語でいうところの同調行動が起きる。
俗に言う群集心理、である。
さらに、である。
「鬼の首を取ったように……」という言い方があるように、人間は相手が大きければ大きいほど、その対象との戦いから自尊感情を満たすことができる。
その点、『ドラクエ9』は絶好のターゲットになりえてしまう。
売上5000本のソフトの悪い点を、どんなに酷評しても自尊感情は満たされない。
今、アマゾンはどうなっているのだろう?
これまたおもしろい現象が起きている。
レビューの件数は、さほど増えていないのだ。
1日あたり10件くらいしか増えていない。
そのかわり、勇気を持って先陣を切って書いたレビューワーたちの意見に、追随する人が増えているようだ。酷評しているレビューを読み、「このレビューは参考になりましたか?」 の問いに対して「はい」をクリックしている。こういう行動を心理学的用語では追従と書いて“ついしょう”と読む。
なんだか、心理学の話で間延びしてしまったが、そもそもは
「はじめまして」からはじまる初対面(?)の方から、「ぶっちゃけどーですか?」という友人まで。昨夜あたりから、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』感想を書いてくれのリクエストのメール多し。
が起点だった。
「はじめから、それを書けよ」というツッコミはなしにしていただいて、思うところを述べる。
まず、一番切ない話をすると『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』は、ものすごく売れるかもしれないが、かつてのような社会現象を起こさなかった。発売日の行列を徹夜で取材した経験がある者にとっては、寂しいかぎりである。
それどころか、一部ではあるが社会を敵にまわす結果となった。ドラゴンクエストを発売するということは、マーケティングをうまくやり、市場適合させることではない。もっと大きな、社会を動かすことだ。それは、社会心理学と密接に結びつく……というオチに持ってきたくて、心理学の話をしてみた。
「私がはじめて言った」とは、言わないし、言えない。
だが、私はかなり早い時期、そう、たぶん『ドラゴンクエストⅢ~そして伝説へ』発売の頃だから、88年からドラゴンクエストのことを、格別な敬意を払って「国民的ゲーム」と呼んできた。
それが今でも他メディアにも普及し、一種の枕詞になっていることを、私はひそかに誇りに思ってきた。最近もその趣旨を伝える原稿を書いた。『スーパーマリオブラザーズ』にも、『ファイナルファンタジー』にも、『ポケットモンスター』にも……他のどんなに名作・ヒット作にも、「国民的」……なんて形容をしたことはない。
ドラゴンクエストだけが許された、ドラゴンクエストのためにとっておいた賛辞。
最大限の敬意を込めた枕詞を、残念ながら、『ドラクエ9』にはつけることはできない。
まさに私が可愛さ余って……なのかもしれない。
でも、こういうフォローをすること自体が悲しいが、星1つであろうはずがない。
これが、「ぶっちゃけどーですか?」の答え、であります。