Hisakazu Hirabayashi * Official Blog2009年09月

09年の9月が終わる

9月の別名、長月。
長い月だった。
ブログのエントリー、1回当たりの文字数が、今月は長かったような気がする。
論理的に説明できないが、長いことを書かなくてはいけないような感性が働いたようだ、今月。

9月3日の新型プレイステーション3発売日前後、そして東京ゲームショウ開催期間中などは、アクセス数が多く、長いメールをいただくことも多かった。

イベントが終わったら終わったで、私は長い時間、話をした。
何から何までが長月だった。

話をしすぎて、ちょっと慢性喉頭炎が悪化気味。
明日の午前まで、無口でいよう。

情熱も必要だが、ときにクールダウンも必要だろう。
まだまだ……語りたいことはたくさんあるが、9月最後の日は静かにすることにした。

なぜ、長月というか、諸説あるらしいが、「夜長月」の略という説が好きだ。
夜が長く感じる月がもうすぐ終わる。
これからは、感じるのではなく、本当に夜が長い月が訪れる。

外は静かだ。
雨音もしなければ、虫の声も聞こえない。

あまりに静かなので、秋の夜になると聴きたくなる曲を聴く。
Bertie Higginsは、私が敬愛してやまないゲーテの子孫だ。



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言葉の幅

  • Day:2009.09.29 00:08
  • Cat:言葉
東京ゲームショウ2009が終わり、同イベントをレビューする講演がいくつか予定されている。
少人数のディナーミーティングもある。電話取材もある。

事前に話しをする内容を考えたり、資料をつくったりするのだが、正直に言って困ることがある。
何に困っているかというと、言葉の幅についてだ。

同じ言葉でも、Aさんの理解したことと、Bさんの理解したことは違う。
こういうことは往々にして起きるが、その幅が広ければ広いほどコミュニケーションは難しい。
逆に幅が狭いとコミュニケーションは容易になる。

そうなのだ。
私は言葉の幅、勝手に略して言葉幅のことで困っている。
なぜならば今週、私はかなり言葉幅が広い言葉をおびただしい回数、使う運命にある。

マーケティング
マネジメント
ゲーム


……の3語を頻用する。

マーケティングというと、製品の宣伝することだと思う人がいる。
マーケティングのあとには「リサーチ」がついてきて、市場調査や市場分析をすることだと思う人がいる。いや、マーケティングとは極大に解釈して企業活動そのものだと思う人もいるだろう。
誰も間違っていない。人、それぞれのマーケティングのイメージがあるのだ。
マーケティングの言葉幅は広い。

マネジメントもそうだ。
マネージャーというくらいだから、野球部員のユニフォームを洗濯する女子高生をイメージする人がいるだろう。芸能人にもマネージャーがいる。だが、「経営者」を和英辞典で調べると、マネージャー(Manager)と書いてある。さらに野球の監督のこともマネージャーと呼ぶらしい。ユニフォームを洗濯するのも、マネージャー。先発メンバーを決め、ヒット・エンド・ランのサインを出すのもマネージャー。これまたすごく広い言葉幅だ。縁の下の力持ちがマネージャーなのか、先頭に立ってグイグイと引っぱるのがマネージャーなのか。

ゲーム。
これは前出のふたつに比べれば、言葉幅は狭い。街の家電量販店や専門店で売っている、家庭用ゲーム機やゲームソフトのことをイメージする人が多いだろう。私も家庭ではそうだ。

だが、今週、私がビジネスの場で頻用する予定のゲームは、別の意味も含まれている。人間が営む本来の「遊び」という意味で使ったり、かなり未来志向の、誰もゲームと想定していないような環境のことを、私はゲームと呼んでしまったりすることもあるだろう。これは自分でまいた種でもあるが、言葉幅は広い。私はこれら難題と格闘をするのだ。

すぐに安きに流れる私は、言葉幅が狭いと楽でいいな、などと思ってしまう。

割り箸
バナナ
USB端子
A4のコピー用紙
動物園
吉野家の牛丼
タクシーの領収書


……について語れば、まず、誤解はされないだろう。
言葉幅は狭く、定義ははっきりとしている。

だが、嘆くのはよそう。

ポストモダン
エコロジー


……の言葉幅に比べれば、マーケティング、マネジメント、ゲームごときは持てる知力の総動員と誠意で何とかなるさ、と自分に言い聞かせている。

東京ゲームショウを終えて

東京ゲームショウを終えて、返す返すも残念なのは、TGSフォーラム2009。

カプコン 代表取締役社長 辻本春弘氏
コナミデジタルエンタテインメント 取締役副社長 北上一三氏
スクウェア・エニックス 代表取締役社長 和田洋一氏
ソニー・コンピュータエンタテインメント SCEワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏
バンダイナムコゲームス 代表取締役社長 鵜之澤伸氏
(*公式サイト掲載順)

業界のトップ・マネジメントが一堂に会した……
基調講演「グローバル時代におけるトップメーカーの戦略と展望」の最中に、モデレーターが「ただ今、入りましたニュースです。任天堂がWiiの値下げを発表しました」と言ったらどんな展開になったであろうか。

それが見たかったかな、今年の東京ゲームショウ。
私が主催者でも、モデレーターでも、パネラーでも答えに困るニュースだが、こんな進行が強行されれば歴史に残っただろうにと思う、もう日付けは変わって月曜日。

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待ち時間、うつむかないで観察する

  • Day:2009.09.26 00:21
  • Cat:教育
東京ゲームショウから帰ってきました。
一昨日、昨日とこのサイトを訪れた皆さんは、ビジネスマンの方が多いと推定できます。

9月26日の土曜日から一般公開日。
ということで、今日は将来、ゲーム業界で働くことを目指す、学生の皆さんに向けてのメッセージをします。

主催者ホームページの開催概要によれば、(※開始時間を最大30分前倒し)の予定だそうです。あまり煽るのはどうかと思いますが、早起きをして会場に行ってください。

会場についたら、まず、何をしたらいいか。
ゲームを遊びにきた、という意識を捨てましょう。
ゲームを学びにきた、という意識を持ってください。

専門学校や大学の先生は、遊ぶために皆さんを幕張に行くよう指示なさっているのではないのです。学校によっては、休日の登校扱いで、代休がある場合もあるのではないですか? それは授業の一貫だからです。

東京ゲームショウは混んでいます。
人気ゲームばかり選んでいると、数時間待ちを何度も繰り返して、一日で3本程度しかプレイできなかった、という話をよく聞きます。

それはそれでまったく構わないのですが、大切なのは待ち時間の過ごし方です。
待ち時間を待ち時間と考えて、携帯ゲームを遊んで「時間つぶし」をしてはダメです。
『ドラゴンクエストⅨ』のすれ違い通信くらいは、やってもいいです。
そう、堅苦しいことを言いません。
ただ、持参したゲームを遊んだり、携帯電話でメールを打ったり、うつむいたままはよくありません。

では、どうすればいいのか?
顔を上にあげ、何でもいいから注意深く見てください。
私はこの2日間、プロフェッショナルのクリエイターの方たちと場内を見回りましたが、その観察力の鋭さには、いつも感心させられます。

たとえば、ポスターの色。同じ黄色でも、オトナ向けの黄色か、子ども向けの黄色かを無意識のうちに嗅ぎ分けています。それが違う場合……オトナ向けのゲームなのに、子どもっぽい色をしているとわかったら、すぐに「平林さん、これは色選びが違っていますね、もったいない」などと言います。

場内には、あふれるばかりの映像が流れています。
来場者の足を止めて、きちんと観られる映像をつくっている会社と、素通りされてしまう会社があります。これは、出展されているゲームに関係なく、映像のつくり方によって差が出ます。

私が師と仰ぐ、映像の先生はまるで体内時計があるように、カットの秒数を体内時計ではかることができます。「あ、あの映像は6秒でつないでいるから、観ていて気持ちいい」などと言います。

プログラマーは絶対と言ってよいほど、他の人がつくったゲームを観たら、どのようなプログラムを書いているのかを脳内で計算します。これはもう、染みついた習性のようなものです。プロフェッショナルですから、たいていのプログラムの構造はわかる。でも、「このゲーム、どうやってつくったのだろう?」とわからない作品に出くわすこともあります。すると、その前でジッと立ち、わかるまで観ているのです。好きなゲーム、嫌いなゲームは関係ありません。わからないゲームが、観るべきゲームになるのです。

待ち時間に流れている映像でも、メニュー画面が映れば、そこにはどんなコマンドが用意され、どんな配列になっているかを観てください。何かの意味があるから、配列が決まっているのです。

シナリオが画面下に流れるのを観たら、その文字は縦に何行、横に何文字かをすぐに数えましょう。数えると何か得をするのか? と問われれると困ります。何の得もないでしょう。でも、優秀なプロフェッショナルたちは、こういうものは、数えるのが当たり前だと思っています。

ゲームの映像、すなわちコンピュータ・グラフィックスには、実写にはない映像効果(エフェクト)が付くものです。数を数えるのが飽きたら、エフェクトのみに神経を集中して観ていれば、長い待ち時間など、あっという間に過ぎていきます。

それでも時間があれば、書体(フォント)ばかりを観ましょう、まだ時間があればカメラアングル、これはエフェクトと関連してきますが、映像内のキャラクターの重さをどのように表現しているか……とにかく、待ち時間は待ち時間ではなく、観て学べるものは無数にあるのです。

こんな観察をしていると、どうなるかというと、うつむいて持参したゲームを遊んでいるのとはまったく違う、充実した脳の疲れを感じることになるでしょう。脳がクタクタになるまで、観て、聴いて、観察してください。

それから、例年、人の少ないコーナーがあって、それはゲームスクールのコーナーです。
ここには絶対に立ち寄って、他校の人たちがどんなゲームをつくったのか、よくプレイして観察してください。皆さん、充実した一日を。

グリー、DeNAを提訴へ

爽やかな朝だったが、こんな出来事が。

この手の裁判はずいぶんと見てきたけど、ゲーム性の類似をめぐる提訴は勝つのが難しい。
特に「釣り」のような既存の遊びを、電子化したゲームはなおさらのことだ。

『釣りスタ』は良くできたゲームだから怒るのはわかる。
だからこそ、かっこ良く怒ってほしい。

今、グリーの会員である私は、すぐに『釣りスタ』をはじめることができるが、「ああ、これは裁判で訴えることになったゲームなんだな……」という邪心がプレイ中に入ってしまうのだ。それがゲームプレイヤーのココロなんだ。

現在の幕張メッセ

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快晴です。
無機的なエリア、幕張メッセ周辺ですが、こうして見るときれいです。
過去と未来が交差する場所。
記事の雰囲気も、夜から朝のムードに切り替えるため、青空を入れてみました。
昨日のことは一旦リセットして、フレッシュな気持ちで行ってまいります。
今日もよろしくお願いします。

東京ゲームショウ2009、私の雑感(6) -まとめ-

話はグッと戻って、東京ゲームショウ2009、今のところの私の感想、まとめである。
ビッグニュースは幕張メッセの外にあった。
それは任天堂の発表だった。
もしかしたら、このニュースの発生地点はアメリカかもしれない。
こんなことを書き綴ってきた。

で、この一連の動向のなかで、誰が一番得をしたかというと、SCEであり、プレイステーション3ではないだろうか、という仮説を立てている。

東京ゲームショウ以前、プレイステーション3は、ヒドイ言い方をすれば、くすぶっていた。なんとなく、そこに黒くて大きなゲーム機があるのだが、世の中に発信されるメッセージは少なかった。

プレイステーション3はXbox360のコンペティターだった。
シェアを奪い合う競争相手だった。
マルチプラットフォームと称して、サードパーティは同じタイトルを開発している。
プレイステーション3とXbox360は、日本の家庭用ゲーム機の2番手と3番手を争う存在だった。

だが、昨日を境にモードは切り替わった。
Wiiのライバルになった。

新型プレイステーション3が世界で実売100万台を3週間で達成。
この実績ができた瞬間にWiiが値下げを発表するということは、プレイステーション3の存在感が、著しく高まったことを意味するのでないだろうか。

振り返ってみれば、ドイツのゲームイベントを使って、お盆明けにあたる8月19日に値下げを発表。9月3日に発売したプレイステーション3。この常識破りのスケジュールが、任天堂のリズムを狂わせたのかもしれない。

もし、東京ゲームショウで値下げを発表していたら。
発売は年末商戦が本格稼働する11月から、としていたならば……任天堂は昨日、Wiiの値下げ発表をしなかっただろう。

任天堂の値下げは世界規模で見れば、大成功の結果となるかもしれない。
プレイステーション3の存在感は高まったが、だからといって、これからもずっと売れ続けるとは限らない。

私は私の考え方によって、プレイステーション3は得をしたと述べているが、現実にはWiiとの価格差は広まった。せっかく縮まったのに、また広まったのだから、結果は有利でもなんでもない。

でも、私は思う。
いや、感じる。
Wiiの値下げは攻めではない。戦いの主導権を握っていない。
プレイステーション3は、発売後3年を経て、遅すぎたスタートダッシュをするのかもしれない。
株主優待