Hisakazu Hirabayashi * Official Blog2010年01月

torne(トルネ)が山を動かす夢を見る

昨日のエントリーの続きです。
『torne(トルネ)』の開発にかかわった3名の年齢を訊いたところで話は終わりました。
その時に私は願っていました。
この3名が幕末の志士のように、歴史を動かしてくれることを。


「通信と放送の融合」と言われて久しい。「通信と放送の融合」は、誰かが勝手に言いだした主張ではなく、もはや定説化した概念で、ひとまとまりの語句として使われている。

わかりやすい例を挙げれば、Wikipediaには「通信と放送の融合」の項がある。
静寂性とパワーを融合させたエンジン――。
自動車のパンフレットに載っていそうな謳(うた)い文句としての融合とは異なるものなのだ。
この「通信と放送の融合」には、言いしれぬ魔力があり、夢見た男たちは多い。
代表的な3名を挙げれば、

孫正義(ソフトバンク社長)。
堀江貴文(元・ライブドア社長)。
三木谷浩史(楽天会長兼社長)。

が、思いつく。
彼らは何をしたか。放送局の株を買った。孫正義はテレビ朝日、堀江貴文はフジテレビ(ニッポン放送)、三木谷浩史はTBSの株主となって支配権を握り「通信と放送の融合」を果たそうとした。

しかし、計画はそれぞれの事情によって実現にいたらなかったのは、衆知の通りだ。
実業家が、巨額な資金を投じて、株主という権限を使っても「通信と放送の融合」は果たせぬ夢で終わったのだ。

同じようなことはアメリカでも起きた。2000年には、アメリカンオンライン社が、テレビ局を傘下に持つタイム・ワーナーを吸収合併。AOLタイム・ワーナー(AOL Time Warner)を設立させている。だが、ITバブルの崩壊によって02年には元のタイム・ワーナーに社名変更。AOLタイム・ワーナーは「通信と放送の融合」どころか、社風が合わない会社同士の合併の失敗例として、歴史に名を残すことになってしまった。

さらにつけ加えれば、孫正義のパートナーだったのは、世界のメディア王とも言われたルパート・マードックだった。マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツも公式の場で「通信と放送の融合」について言及している(1994年COMDEX基調講演など)。

このように名だたる実業家たちが、動かそうと思っても動かないのが「通信と放送の融合」だ。まるで山のようだ。

「通信と放送の融合」をしたいと思うのは実業家だけではない。
大きく言えば国家も考えていることであり、通信・放送融合技術の開発の促進に関する法律までできている。

一昨日、私が体験会で『torne(トルネ)』の開発にかかわった方、3名と会って、頭の中でオーバーラップしたのは、上記の実業家たちの顔、顔、顔だった。

放送局の経営権を握るという手段で豪腕を振るうのではなく、法律の強制力で普及させようとするのでもなく……。楽しいゲームをつくる感覚で、インターネットに接続された状態でテレビ番組を観る。そして、私は現在発表されている『torne(トルネ)』は、原石のようなものだと思うから、これが発展して「通信と放送の融合」と呼べるものになっていったなら、これほど痛快なことはない。あ、そうだ。彼らは「通信と放送の融合」などとは、ひと言もいっていない。見ながらネットとそれを呼ぶ。(下写真は左がテレビ視聴画面、右がインターネットで検索後にWEBサイトに移動した画面)

見ながらネット02

ネクタイをしない、40歳、36歳、36歳のゲームソフト製作者が、9980円の周辺機器で「通信と放送の融合」の山を動かしたとしたら……。私はそんな夢を見ている。

公式サイトが更新され、ムービーがアップされている。



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torne(トルネ)はゲームソフトだった

『torne(トルネ)』の体験会に行ってきた。
どういう仕様の製品かは、他のニュースサイトをご覧いただけば、十分すぎるくらいの情報が流れている。公式サイト。特に同サイト内torneとは?のコーナーはわかりやすく、写真つきで機能を解説してくれている。

情報は、マジメな記者がお書きになったことや、公式サイトを参照いただくとして、私はをまじえて書いてみたい。情とは、感情、私情、愛情、叙情の情だ。

今回の体験会で、わかったことは『torne(トルネ)』はソフトである、ということだった。記者会見で最初にスピーチをしたのは、ゲームデザイナーの西沢学氏であった。西沢氏は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)で、ゲームソフトの制作を担当する部署に所属されている。他にスピーチをし、また記者からのインタビューを受けたのは、商品企画担当の渋谷清人氏、アプリケーションの開発を行った石塚健作氏の3名であった。いずれもソフトを考える人たちだ。ハード設計者ではない。

また3名は、体験会終了後のスナップ写真の撮影でも、『torne(トルネ)』のまわりを囲むように立っていた。これは、新作ゲームソフトの発表会でよく見る光景、そのものである。全員、ノーネクタイだったのも印象的だ。

snap.jpg

彼らが発言した内容もハードの説明のようではなかった。ソフト、ゲームソフトの説明のようだった。

「テレビを観る、という行為そのものを“遊び”にしてみたかった」
「直感的なわかりやすさを追求した」
「クイックレスポンスを心がけた」
「アナログスティックは、また別の使い方ができると思う」


このような話ばかりで、ハードの発表会にありがちな、冷却ファンや消費電力の話はまったく出てこない。



epg2.jpg

epg1.jpg

番組表は高速で操作でき、1番組をアップにした画面と全番組を観る画面も瞬時に切り替わる。まさにクイックレスポンス。
ファイル・ウェブ編集部の【EPG操作画面】の動画がわかりやすい。



話は前後するが、体験会のまえには着座した記者たちの注目を集めるために、オープニングムービーが流れた。
そのナレーションもすごかった。繰り返すが、本当にすごかった。これぞ、『torne(トルネ)』の本質か、と思ったほどだ。

「ポポンのポンで録画が可能」とキタ!

ハード。それこそ、お固い体験会ではありえないナレーションだ。ボタンを簡単にポンと押せば、本当に録画ができるので、「ポポンのポンにした」とマーケティング担当の方は言っていた。この表現の勇気、ナイスである。

さて、そのインターフェイスだが……

プレイステーション3に『torne(トルネ)』のブルーレイ・ディスクを入れたあとのトップメニュー画面。丸いアイコンが8個並ぶ。そしてこれらは、コントローラの上下キーを押すと回転する。

丸いアイコン、回転するメニュー選択……というのは、まさにゲームソフトの発想だ。
私の自宅のテレビがそうだが、普通の家電製品ならば四角いメニュー画面が、無愛想に縦一列に並んで動きもしない。メニュー画面でのコマンド入力を気持ち良くしよう、などという発想は家電製品にはない。リモコンのボタンを押しても、モッサリと動く。

細かいところで突っ込まないでほしいのだが、丸と回転と速度はゲームの特徴。
四角と上下運動とモッサリした動きは家電製品の特徴と、私の心の中には、そんな象徴主義が形成されている。

さらに、こんな工夫も凝らされている。8つの丸いアイコンの中には、

Schedule
Guide
Search

と、書かれているものがある。
けっして難しくはない英語なのだが、そこにはフリガナが書かれている。

スケジュール
ガイド
サーチ
ではない。

Scheduleにはヨヤクカクニン
Guideにはバングミヒョウ
Searchにはバングミケンサク

と、読みではなく意味。
ここ、いちおう韻を踏んだつもりなので念を押す。
ヨミではなくイミを、カタカナにしてフリガナにするというのは、いかにもゲームデザイナーらしい発想だ。



topmenu.jpg
557トル。「トル」は同一都道府県内で何件の録画予約をされているかを示す単位。


というわけで、『torne(トルネ)』から、地上デジタル放送の録画ができるようになるレコーダーキット→プレイステーション3のデジタル家電化と連想。そこから「トルネはSONYの製品と競合することにならないか?」という趣意の定型的な質問が、他の記者から出たけれども、これは今回の体験会のポイントではないだろう。記者の方は、職務としてお尋ねにならざるをえなかったと、好意的に解釈申し上げたい。

では、オマエ=私は何の質問をしたのか?
ヘンなことを訊いてしまった。
「もし、さしつかえなければ……」と前置きをしたうえで、登壇された3名の年齢をうかがった。
質問した瞬間に、場内で笑いが起きた。答えてくださったご当人も「こんな質問されると思わなかった」と苦笑。

それでも、渋谷清人氏、40歳。石塚健作氏、36歳。西沢学氏、36歳。
……と真摯に答えてくださった。ありがたい。

笑われるのを承知のうえで、なんで年齢などをお尋ねしたのか?
そこには我が感情を揺さぶる、深き思いがあるのだが一気に述べては話は散漫になるので、次回のエントリーで述べたい。

(つづく)

お知らせ■『torne(トルネ)』は1月23日、24日に開催される次世代ワールドホビーフェア '10 Winter 東京大会で体験できるコーナーが設置されるそうです。また、東京と大阪のコンセプトショップでも1月23日から体験可能になるそうです。場所等は下記のリンクをご覧ください。


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ゲーム会社の合併は成功だったのか?

山崎豊子……と書き出すと、『沈まぬ太陽』の話か? と連想されるかもしれませんが、『華麗なる一族』の話を前置きで書きます。



『華麗なる一族』は週刊新潮に連載された小説で、掲載がはじまったのは1970年のことだった。
なんと、40年もまえのことだ。

物語に登場する阪神銀行は、神戸銀行がモデルになっているとされる。
小説の中では、大蔵大臣も大蔵省銀行局の官僚も、阪神銀行の頭取(TBSのドラマでは北大路欣也が演じた)も、再三訴えていた。

それは、現状に対する危機意識の叫びだった。
と同時に、新展開をすれば希望が生まれることの叫びでもあった。

当時のバンカーたちが訴えていたのは、合併による業界再編!

都市銀行の数が多すぎる。
このままでは、一行当たりの体力が弱く、もし国際競争にさらされたら、日本の銀行は生き残れなくなってしまう。この問題を解決するには、銀行同士の合併を進め、規模を大きくしなくてはいけない、と。このような趣旨のセリフが頻繁に出てくる。

で、当時としては異例の大型銀行合併の例として、小説の中では東洋銀行。太陽神戸銀行(がモデルになっていると思われる)新銀行が誕生している。ものすごく時間がかかったわけだが、銀行の合併は進み、小説の連載から約30年がすぎて、日本の銀行は3大メガバンクが生まれたわけだ。

ところで。
『華麗なる一族』に登場するバンカーたちと、同じとは言いきれないけど共通項はあった。
ほぼ近しい考え方によって、ゲーム会社は合併・経営統合をした2000年代だったと思うのだが、それは成功だったのだろうか? 失敗だったのだろうか? それとも何の変化も感じていないのだろうか? 成功とも失敗とも決めることができない、一長一短だったのだろうか?

合併をすると、必ずと言ってよいほど記者会見やニュースリリース文で、シナジー (Sinergy) =相乗効果がうたわれていたが、その効果はあったのだろうか? そして、個人的には一番関心があることなのだが、その会社で働く人は幸せな環境に変化した、と感じているのだろうか?

改めて総括……というと重くなるので、あえて軽薄にソーカツとカタカナで書く。
2010年。ゲーム会社の合併・経営統合はどうだったのか。



もし、よろしければコメントか右のメールフォームからご意見をうかがいたいです。
ユーザーの方の意見も歓迎しますが、働いている方の生の声を知りたいです。


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都心の川にボートを浮かべて遊んでもいいの?

私は威張れるほどの善人ではありませんが、断れないタイプの男かもしれません。
先週末のことでした。
飯野賢治という人物が、ゲーム機・セガサターン本体の中古をいますぐに欲しいとTwitterでつぶやいていた、というか叫んでました。

できれば、東京都目黒区の中目黒界隈で……という、じつに限定されたエリアで探しています。私は、すぐに探さねばと思い、ブックオフをはじめとして、ありそうな場所に片っ端から電話をかけました。でも、売っている場所はありませんでした。

昨日もそうでした。
夜の8時過ぎ。ふと思ったんだけど……からはじめる書き出しで「都心の川にボートを浮かべて遊ぶには、許可や免許が必要なのか」を知りたがっていました。

これまた、リクエストの場所が中目黒(笑)で「たとえば(行けるかどうかは別として)中目黒から船浮かべて『わーい、品川だよー。海だよー!』とかやってOKなの?」ということを質問して、本人は夕食を食べに行ってしまいました。

しょうがないなーと思って、かわりに質問しておきました。
OKWaveに。
あつかましいお願いですみません。
もし、この質問に答えられる方がいたら、ぜひ回答をお寄せください。


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torne(トルネ)をめぐる雑感集

■2chの視聴率
任天堂のファミリーコンピュータは、テレビのアンテナ端子に接続するゲーム機だったね。日本全国、どの地域でも1chと2chは空きチャンネルになっているから、そのどちらかを選択できるようになっていたね。ファミコンブームが起きたため、テレビ関係者はあわてたね。また、当時はビデオデッキの普及期でもあった。というわけで、テレビ番組を見る時間が減って、(関東地区の場合)「2chの視聴率が上がった」と言われた80年代だったね。

■ゲーム機戦争
ファミリーコンピュータが市場を独占する時代が終わると、ゲーム機戦争なるものがはじまった。ゲーム機戦争とは、別の見方をすればテレビに接続する機器はどれにする戦争? でもあったね。黄色・赤・白のケーブルを接続するテレビの入力端子は、ビデオ1、ビデオ2、ビデオ3。この空き端子を狙っていた90年代。2chを奪っていたゲーム機が、いつの間にか立場が変わってしまった印象を持ったね。

■こんな感情が……
つまり、ゲーム機がすごいのすごくないのと言っても、所詮(しょせん)はテレビの下にぶら下がる接続機器に過ぎないのか。ゲーム機に肩入れしている私は、おもしろくない感情に支配されたね。なんだか、ゲーム機がテレビの僕(しもべ)になってしまったような気がしたね。

■テレビとインターネット
インターネットが流行すると、家電メーカーは「インターネットテレビ」と称し、テレビ受像機にネット接続機能をつけた製品を出したね。でも、どのメーカーの製品もヒットしなかったね。まだ、ダイヤルアップ接続の時代だった。しかも、少ない本数の走査線をチカチカさせるブラウン管方式のテレビでは、WEBサイトが見にくくてしかたなかったね。

■そういえば……当時
マイクロソフトが「WebTV」なんて言ってたけれど、「まだ早い」という印象を持ったね。セガのドリームキャストも勝負に出た。思い切って本体にモデムを内蔵させたけど、これも「まだ早い」と思ったね。

■プレイステーションの我慢
ところが、周囲のゲーム機や家電メーカーが、インターネット狂想曲を歌っているときに、最もそういうことをしてもよさそうなはずのプレイステーションは、CD-ROMのパッケージソフト販売の一本だったね。踊らされない、場が見えている、と思ったね。では、プレイステーションはただ守りに入っていたかというと、そうではなかった。プレイステーションが採用したCD-ROMというメディアは「読み込み速度が遅い」と悲観視する意見だらけだったね。当時は。現実に任天堂のロムカートリッジに慣れている人が操作したら、起動が遅いったらありゃしない。過去にもCD-ROMを使ったゲーム機はあったが、勝利した者はいない。でも、ハンディキャップをくつがえしたのがプレイステーションだったんだね。

■プレイステーション2への期待
そのプレイステーション2が、前述のエントリーで述べたように、満を持してネットワーク構想を打ちだした。それまで「インターネットテレビ」やゲーム機のインターネット接続は普及しなかったけど、プレイステーション2ならば、なんとかしてくるだろうという期待があったね。日本国内におけるゲームソフトの売上は97年、98年あたりがピークになって下降段階に入りそうだった。当時、私は従来型のゲームソフトの将来性に不安を感じていて、そのブレイクスルーになってくれることを望んでいたね。

■プレイステーション2への落胆
でも、ビジョンは素晴らしいのだが、まわりが整っていない。サービス、インフラ、もっと言うと、プレイステーションが発売される時に感じた、社員が一丸となって革命を起こすぞ……のようなエネルギーが、プレイステーション2の時には、社内からあまり伝わってこなかった。これは大いなる問題だ。だが、問題にならなかったね。なぜなら、プレイステーション2はゲーム機として売れたから。しかも、発売日の最初の週末で100万台売れるほどの大成功だ。企業の成長は問題を隠すものなのだ。でも……ああ、これでプレイステーション2は、普通のゲーム機になっていく……という、一抹の寂しさを感じたね。

■別の策としてのニンテンドーDS
プレイステーション2はよく売れた。海外市場でも売れまくったね。でも、私の予測は当たって、国内ゲームソフト市場は落ち込んでいったね。プレイステーション2は、本当にプレイステーション2で、プレイステーションの延長線上にあるゲーム機で、革新的な製品にはなれなかった。プレイステーション2はプレイステーションの改良品だった。なんか、閉塞感があってね。このもどかしさみたいなものを、まったく別の角度から解決しようとしたのが、ニンテンドーDSだと思うね。

■Wiiにも続く
ニンテンドーDSという、インターフェイスの革新が成功したら、今度は据置型ゲーム機でもそれをやったのが、Wiiだと思うね。

■プレイステーション3はプレイステーション2
プレイステーション3は、確かにSuper Computer for Computer Entertainmentをコンセプトとして発表された。これも、プレイステーション2同様に、素晴らしいビジョンだと思った。だけど、その構想を実現するためには、いかに困難かも同時にわかったね。期待したい。でも、プレイステーション3が、普通のゲーム機になってしまうことを感じていたね。プレイステーション2の時と同じで、他の環境が追いついていなかった。プレイステーション3はソフト開発費が高いゲーム機と受け取られていたからね。

■体感ゲームの二の矢としての『Wiiの間』
体感インターフェイスは、一見すると楽しそうだけど、飽きやすいという弱点を持っていることを知っている任天堂は、『Wiiの間』という次の手を打った。インターネットを使ったオリジナル番組の配信をはじめたわけだが、けっして盛り上がっているとはいえないよね。むしろ、昨年の12月には『New スーパーマリオブラザーズWii』が爆発的にヒットした。従来型テレビゲーム→体感ゲーム→インターネットによる番組配信という、いかにも論理的整合性を持った革新の道筋が正解なのではなく、時にマーケットは原点回帰を好む、という気まぐれな面を見せているね。私が思うに、今の任天堂は成功しながら戸惑っている気分かもしれないね。

■出遅れを巻き返す第3のカード
プレイステーション3、ゲーム機としてのプレイステーション3は、昨秋の値下げから弾みがついたね。さらに、年末には『ファイナルファンタジーⅩⅢ』も出て販売は好調だった。ところが、「値下げ」「FF」というカードを使ってしまって迎えた2010年、春。次のカードは何があるんだろう? と不安視していたところにトルネだ。トルネの仕様について不満をもつ人、そもそもプレイステーション3はゲーム機のままであるべきと考える人がいるのはわかる。わかるけど、SCEがトルネのことをうまく扱えば、単なる地デジチューナー&レコーダーではない道が開けることを期待するね。

■うまく扱えば?
……うまく扱えばとは、英語でいうとManagementだね。どうにかするための総合力だね。プレイステーション2も、プレイステーション3も、ビジョンが先行していた気がするからね。トルネのManagementがうまくいけば、家電品とも違う、ゲーム機とも違う、その中間を行く、コンピュータ・エンタテインメントが生まれてくれることを信じたいね。じつは、どうすればいいか、私の頭の中には構想がばっちりあるね。しかもそのことは、現時点ではどこの報道にも、ブログにも書かれていない。言うのがもったいないから、ここでは書かないね。でも、世の中にオープンになった情報のある点に注目すれば、トルネはおもしろいことができると思うね。

■最後に
今、私はコンテンツの話とメディアの話を切り分けることに凝っているね。たとえば、私の母親は「最近のテレビはつまらないねぇ」などと言う。これはテレビ番組というコンテンツのことを指しているのか、テレビジョンというメディアのことを指しているのか。分解して考えると、思わぬものが見えてくることがあるね。

以上が、トルネに関する他愛もない思いつくままの感想だね。お気づきだと思うけど、トルネだから、語尾に「ね」が多いね。

torne(トルネ)とハイパーメディアクリエイター

『torne(トルネ)』のこと。
前回のエントリーが(つづく)で終わっているので続きを書きます。

「地上デジタルチューナーと視聴・録画アプリケーションをセットにしたプレイステーション3用地上デジタルレコーダーキット」としての『torne(トルネ)』は、わかりやすいですね。今、すでにあるもの……の改良品ですので、イメージがつきます。

「他のレコーダーより安くて、お得!」
「これでプレイステーション3を買う理由ができた」
といった肯定的な意見。

逆に

「BS・CSが録画できないのは魅力が半減!」
「かつてあった、PSXと似ていて失敗しそう」
といった否定的、懐疑的な意見もあります。

どちらにしても、繰り返しますが、すでにあるものとの比較で、購入するかどうかは、購入予定者の方の脳内の価格.comで比較検討してください。

私が『torne(トルネ)』に期待すること、こうなってくれたらいいなと思うのは、既知ではなく未知なんです。既知の地デジ対応レコーダーではなく、未知のコンピュータ・エンタテインメントを生む可能性があります。

放送。
通信。
ブルーレイディスク。

この3つの掛け算に期待します。

放送を見て録画するだけ。
インターネットにつなげてPCがわりになるだけ。
ゲームソフトを含む、ブルーレイディスクに格納されたコンテンツを再生するだけ。
これでは、3本の情報が流れる川です。

これらをうまく組み合わせれば、オンライン・ゲーム、デレビ視聴しながらチャット……のような既知のものだけではなく、無限の可能性があると思うのですね。

さらに、プレイステーション3にカメラをつけて、マイクもつけて……と考えていったら、脳内の価格.comで比較するモノとは別の発明品が登場するかもしれません。

最近のゲームづくりは、開発費がかかって困ると嘆きながら、ゲーム制作にたずさわってきた方。
新しいメディアの組み合わせを考えるチャンスではないでしょうか。

私はですね、『torne(トルネ)』の報にはじめて触れたとき、ああ、これは開発費なくて困っているゲームプランナーが、本来のアイデア勝負をするチャンスだと思いました。

そう、今、活躍してほしいのは、ゲームクリエイターではなく、ハイパーメディアクリエイターなんですw

torne(トルネ)は突発的なできごとではない

昨日の午後のこと。

ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(SCEJ)は、ホームエンタテインメントシステムとしての「プレイステーション3」の魅力をさらに拡げる専用周辺機器として、地上デジタルチューナーと視聴・録画アプリケーションをセットにしたPS3R専用地上デジタルレコーダーキット『torne(トルネ)』を、希望小売価格9,980円(税込)にて2010年3月より発売いたします。

との発表があった。
専用サイトもオープンした。以後、ニュースサイトで続々報道され、2ch掲示板やTwitterなどのネットワークメディアを通じて、この報は一気に広まった。

私の感想はというと、まったくもって冷静だった。
驚くことでもなんでもない。

この日がやってくることは、約17年前に予測がついていた。ソニー株式会社は、プレイステーションを発売することを決めた。と、同時に同機はソニー本体ではなく、新会社を設立して発売することになった。その企業の名前は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)だった。プレイステーションはゲーム機だったが、社名はソニー・ゲームズではなかった。プレイステーションの将来像が、ゲーム機ではないことは明白だった。この予測は、ソニー銀行が銀行業務をやることを想像するくらいに簡単なことだ。

さらに、である。

プレイステーションの発売の前週に、日本工業新聞の記事を書くために、私はソニー・コンピュータエンタテインメントを訪問して取材している。当時、広報責任者だった佐伯雅司プロモーション企画部次長(肩書きは当時/以下インタビュー記事も)が対応してくださり、次のように答えている。

佐伯 ソニーがやりたかったのはデジタル映像のシンセサイズです。テレビ番組『進め!電波少年』をご存じですか? あのリアルタイムCGはソニーの「システムG」という技術によって開発されています。この技術を家庭で再現し、エンタテインメントに応用したいと考えたのです。その技術者が、現在SCEの開発担当取締役をしている久多良木健であり、生まれた製品が今週発売するプレイステーションというわけです。プレイステーションのことを「3D表現がすぐれたゲーム機」とおっしゃる方がいます。けど、メーカーサイドの思い入れを言わせてもらえば、あれは「家庭向けエンタテインメント用のデジタル映像のシンセサイザー」なんです。

平林 「デジタル映像のシンセサイズ」という発想からプレイステーションは設計された点についてはわかりました。ではその後、SCEが設立するまでの経緯は? どうしてソニーグループが次世代ゲーム機を発売するようになったのか、興味があります。

佐伯 久多良木(SCE取締役)の発想――。デジタル映像のシンセサイズというのが、ハード側の発想だとすれば、ソフト側にも同じようなことを考えている人がいました。その代表的な人物が、当時はソニー・ミュージックエンタテインメントにおり、現在はSCEの副社長である丸山茂雄でした。ハード同様、ソフトもデジタル化の流れは急速に進んでいる。たとえば、レコードをつくる際にフルオーケストラをスタジオに招いていたのが、シンセサイザーの登場でガラッと変わったのです。今、スタジオと呼んでいるのは、コンピュータールームに等しいんですね。そんな変わり様を目の当たりに見てきた丸山たちは、「これからのエンタテインメント・ソフトはデジタルにある」ことを、大いに確信していたわけです。




上の動画はインタビュー中に出てくる、『進め!電波少年』の一場面。背景のCGと実写の合成、またその変形や映像効果(エフェクト)をリアルタイムに制御しているのが放送機器「システムG」だった。

なお、このインタビューは現・静岡大学情報学部の赤尾晃一准教授と共著の書籍『ゲームの大學』、195ページに収録されている。

ともあれ、この設立経緯からもわかるように、ソニー・コンピュータエンタテインメントの創業時の幹部たちは、ゲームを軽視しているわけではない。むしろ、ゲームを重視して市場参入したわけだが、その先を見ていたことは確かなのである。

もう少し、時間を進めよう。

そのプレイステーションが日本国内だけでも2000万台売れるほどの大成功を収めた。
後継機種、プレイステーション2を発売するにあたって、当時の久多良木社長は下写真を使ったプレゼンテーションを行った。場所は都内のホテル、99年9月のことだった。
The PlayStation Visionと題してプレイステーションビジネスの長期戦略が語られ、この場でも明確に、Networked Digital Entertainmentを目指すと宣言されている。

psvision.jpg

プレイステーション2を持っている人は多いだろう。
もし、ゲームソフトを挿入しないで起動するとどんな画面が現れたか?
黒い画面をバックに「ブラウザ」との表示がされるはずだ。けっして「ゲームディスクが挿入されていません」といったエラーメッセージは出なかった。すなわち、プレイステーション2の設計段階からして、パッケージソフトに頼らない、Networked Digital Entertainment市場の拡大を狙っていたのである。

くどくなるが、もう一枚の写真。
これはプレイステーション3が発売される前年の2005年のE3で公開された。

2005e3.jpg

Super Computer
for Computer Entertainment.


と、プレイステーション3のコンセプトが晴れがましく発表されている。
この場でも、「すごいゲーム機をつくりますよ」と、ゲーム機に限定したプレゼンテーションをしていない。
もちろんゲームソフトが作動するマシンをつくったが、その用途は、はるか先を見ている。

私は何を言いたいか。
『torne(トルネ)』は驚くことでもなんでもない。
ソニー・ゲームズではなく、ソニー・コンピュータエンタテインメントと呼ばれる会社が、ようやく出すべくして出すことになった製品が、昨日発表されたのだと思う。『torne(トルネ)』はどんな歴史の延長線上にあるものか、念入りに語ったが、まったく各論に入っていない。

これではあまりにも締まらないので、簡潔な感想を述べる。
『torne(トルネ)』のビジネスは成功するだろう。

(つづく)
株主優待