Hisakazu Hirabayashi * Official Blog2010年05月

iPad、利用雑記


前回エントリーのMP3TUBEで「いい意味でオトナの高級玩具」と評してみたが、まったくそのとおりで、時間があると、ついiPadを触っている。そんな週末だった。

オモチャを漢字で「玩具」と書くが、明治時代には「手遊」と書く当て字もあったそうな。iPadのオモチャ感覚は「玩具」よりも「手遊」に近いかもしれない。

iPadの魅力のひとつに、色気がある。たとえ使い勝手に難があっても、それを吹き飛ばすほどの色気だ。これが一種の「魔法」になっていて、所有欲を大いに満たすデバイスになっている。

いろいろなアプリがあるが、機能として問題があるものも多い。代表例は、TwitterのクライアントであるTweetDeck。どうしたことかメッセージが時間通りに並ばない(笑)。期待していた定番ゲームソフトは、ある手順で操作すると必ずソフトがシャットダウンしてしまうという、致命的なバグが残っている。ダウンロードしたのに、がっかりするアプリも多い。

そんな中でも、圧倒されまくりなのがi文庫HDだ。現時点ではイチオシのアプリだ。「ただの青空文庫のビューワーでしょ?」と侮ってはいけない、PCで文字を読むのとは別種の感動を生む。

紙の文庫本で、PCの画面で何度読んだかわからない、中島敦の『山月記』。夕べ、i文庫HDで改めて読んだら結末で泣いてしまった。中学2年生のとき、以来の出来事だ。ありがとう、i文庫HD。

李陵・山月記 (新潮文庫)李陵・山月記 (新潮文庫)
(2003/12)
中島 敦

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週末のニュース番組ではiPadが特集されていた。コメンテーターの皆さんたちは、「世界が変わる」とか、「歴史に残る」とか、かなり大ぶりのスイングで激賞している。

私は‥‥日和見主義者のようだが、触りまくって、感動して涙を流しているのに、どこか冷めた部分もある。ひとりの人格に賛否両論が宿っている感じ。この見解は卑怯だろうか。それが真っ当な評価ではなかろうか。激賞もしないし、批判もしない。

細かくいうと賛否両論は五分五分っぽいが、「賛」が7割、「否」が3割の感情を抱いている。

とあるコメンテーターが「iPadこそがノートパソコン。今までのパソコンは、ディスプレイとキーボードが分離していてノートではなかった」と、巧みな比喩を使っていた。

だが、私はiPadはiPadでノートパソコンの感じがしない。

iPadって使ってみると想像以上に受動的。i文庫HDで本を読んでいた時間が長いせいもあるかもしれないが、こちらから情報を発信するには、いかにも機能が足りない。

たとえば、このブログの更新をiPadでやろうとは思わない。ソフトウェア・キーボードはよくできている。でも、既存のキーボードと辞書システムには、かなわない。コピー、カット、ペーストも従来のマウス操作のほうが便利だ。この文末に‥‥「いや、これは慣れの問題かもしれないが‥‥」と書いておくと、リスクヘッジをしたことになる。そういうもの書きの常套手段は、あえて使わない。

しかし、である。簡単なメモを作成し、一瞬でメールを送るならば起動時間が早いiPadを使ったほうが便利。

もう一点、これが無料? と目を疑うほどのすぐれたアプリがある。『Puppet Pals』という。出演者を選び、舞台を動きを決め、録画ボタンを押して即興で人形劇をつくるソフトだ。私は、このアプリがi文庫HDに続いて気に入っている。

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日本で発売されたiPadの感想

2010年5月28日。
日本でもiPadが発売されました。
買ってみて、使ってみての第一印象です。

【音声を補足する言葉とサイトです】

下賜(かし)。
スティーブ・ウォズニアック。(アップル社創業メンバーのひとり)
iPadのサポートサイト
ソフトバンクのWi-Fiサービス。

そういえば、このブログ。
ウィンドウズXPで見るとデザインがダサくなるのは承知してたのですが、iPad、iPhone、それとウィンドウズ7を意識してのデザイン・リニューアルでした。

タッチパネルや3D映像を使わなくても

タッチパネルや3D映像のことばかり考えているわけではない。
でも、意識してしまうんだ、いつも。
職業病みたいなもので。
特に今月は。
しかも、明日はiPadの発売日ではないか!

触ること、立体感があることは、こんなカタチでも表現できる。
Sand Drawing‥‥
テクノロジーは有益だが万能ではない、と自戒しつつ。
でも、そのテクノロジーがあるから、この芸術を見ることができたことにも戸惑いつつ。

電子書籍を販売して思ったこと



5月23日、文学フリマにて電子書籍を販売してまいりました。
電子書籍を技術論ではなく、ビジネス論でもなく、ベタベタの売り場に立ってみての感想などを述べております。
以前、音声メッセージは「VOON」を使っておりましたが、今回からMP3TUBUでお届けしています。

desk.jpg

2席にサンプルを置き、購入される方はメールアドレスを入力する販売風景です。

ソニー、グーグルと提携は、「バトルロイヤル時代」の象徴

夕べは早寝をしました。
目が覚めたら、ソニー、グーグルと提携と書かれた新聞が届いていました。
驚きませんでした。

上の文章の3行目。
「ビックリしました」と続くことを、新聞記者さんは期待をして1面トップのニュースにしたのでしょうけど、私は驚きませんでした。

私はこの数年間、「業界再編の時代は終わった。これからは天地創造にも似た、企業と企業の組み合わせが誕生するだろう」と公言してきました。ですから、いかにも起きそうなことが起きた、と思うだけでした。

午前中、この件に関する取材のお電話を2件いただきました。
ひとつは、軟らかいエンタテインメント系の雑誌で、もうひとつは、硬派なビジネス誌です。記者の方に私は、こう答えました。

軟らかい雑誌の方には……プロレスを比喩にして話をしました。


「いきなりプロレスの話をして恐縮ですが、時代は、1対1のシングルマッチ、2対2のダッグマッチではなくなってきている。今、そしてこれから何年もかけて起きるのは、誰が敵で、誰が味方かわからない『バトルロイヤル』だと思っています」。

「1対1の時代……わかりやすい例をあげれば『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』はライバル同士でした。敵と味方になって、シングルマッチをやっていました。ところが、その2社が一緒になって、スクウェア・エニックスになりました。他にも、バンダイナムコが、セガサミーが、コーエーテクモが、タカラトミーも生まれました」。

「企業統合と提携は違うじゃないか! というツッコミはなしでお願いします(笑)。意味は、ほぼ同じだと思うので、もう少し聞いてください。ともあれ、業界再編の時代は一巡した、と思っています」。

「今は、さらに一歩進んで、業界内だけの組み合わせでは、良い製品やサービスはつくれない。もっと、なまなましく言うと、業界や国境の枠など飛び越えて、コンビを組まないと生き残れない。逆に名コンビが生まれれば、すごい化学反応が起きるかもしれない。そういう時代がすでに来ています」。

「2010年5月現在、ハイテクビジネスのリングでは、アップルという名のレスラーが大暴れしています。iPodが売れている、iPhoneが売れている。製品だけが強いだけではなく、ネットワーク上での販売網やOSまで抑えそうな勢いです」。

「そんな時に、リング上でパッと目があったのは、ソニーという名のレスラーと、グーグルという名のレスラーで、一緒に組もうぜと阿吽(あうん)の呼吸でタッグが結成された。そんなプロレスのリングを連想してもらうとわかりやすいかと思います」。

バトルロイヤルネタ。
じつは講演の際に、しばしば使っていたので写真もあります。
battle.jpg

こんな話を糸口に、いろいろとお話をしました。
硬派なビジネス誌の記者の方には、同じことを、ちょっと背伸びして難しい用語を使って話しました。


「今回の提携をメタ視点から見ると、業界という概念がなくなる……と私は数年前から言っているのですが、その典型のような事象だととらえています」。

「どんな大企業も、創業時に『さあ、業界をつくろう』などとは考えていない。ただ、目の前に、発明品のような素晴らしい製品やサービスがある。売れそうなので売った。フタを開けてみたら、予想通りによく売れた。すると、同じような製品、改良品を売る企業が複数社、出てくる。それが束になると、いつのまにか『業界』が、できてしまうのです」。

「鉄鋼業界、繊維業界、自動車業界、家電業界、百貨店業界、食品業界、不動産業界、建設業界……こういうトラディショナル業界の呼び方をトレースするようにして、新しい業界が次々と誕生しました。コンピュータ業界、ソフトウェア業界、ゲーム業界、アミューズメント業界、IT業界、インターネット・カフェ(複合カフェ)業界……」。

「便宜上、業界でくくることは、あってもいいと思います。いや、業界でくくるメリットはいくらでもあります。業界でくくっているから、『繊維業界と百貨店業界の売上の相関関係』などを、調べて分析することができます」

「ですが、業界でくくることは境界線の外側から見るうえでは、この上なく便利なのですが、その業界に帰属する企業にとって、また、そこで働く人にとって、思考を硬直化させてしまう、というデメリットがあるとも考えています」

「学生は入社するときから、○○業界を目指します。めでたく入社します。そこで働くことになったら、○○業界には、いかにもその業界らしい法的規制や、明文化されていないけれども守らなくてはいけない掟が存在するものです。さらに、こういうモノをつくらなくてはいけない、こういう売り方をしなくてはいけない、といった、働き方にも一種の定形(パターン)があります」

「このパターンを繰り返すうちに、不必要な仕事の癖がつくことになり、思考の硬直が起こり、企業も個人も、時代の変化に対応できない、というようなことが往々にしておきます」。

「今回の提携の仮想敵がアップルであることは、容易に想像できます。アップルは、パーソナルコンピュータ業界を興した会社ですが、業界にしばられませんでした。厳密に言えば、2000年代になって、業界の呪縛が解けて、携帯端末、通信機器、オンラインストアを立て続けに成功させて……いわば『アップル業界』をつくることに成功したのです」。

「アップルには何ができるのか。硬直していない柔軟な発想で、企業が持っている因子を分解する。顧客はどの因子を求めているかを考察する。そのマッチングを行う。足りないものがあれば、付け加える。業界でものを考えないということは、因子でものを考えると同じ意味だと私はとらえています」。

「現在のアップルが成功しているから、ソニーもグーグルも真似をした……では期待はずれです。『YouTubeが見られるテレビです』と言われたら、かえって興ざめします。アップルが例示した業界の壁、破壊モデル。既成概念にとらわれない……。この成功をソニーもグーグルも認めたうえで、真っ向勝負をしてほしい。アップルの製品やサービスは完璧か。コンテンツ・プロバイダーは皆、満足しているか。そういう検証をして、新時代にふさわしい事業モデルを提示してほしいです」

……とお答えをしました。

もちろん、以下、もろもろの各論についての質問をされ、回答申し上げました。
ですが、お伝えしたかった根底の部分は、誰が敵か、誰が味方かの区別がつかない「バトルロイヤルの時代に突入している」「業界の壁は破壊されていく」……ということにつきます。

関連する名言:
「ぼくは人類の職業分化に反対だ。絵描きは絵描き、学者は学者、靴屋は靴屋、役人は役人、というように職業の狭い枠のなかに入ってしまって、全人間的に生きようとしない、それが現代の虚しさなんだ」(岡本太郎)

私のインターネット体験と「あつかましい」告知です

私は、2000年前後に起きたITバブルとは縁が遠かった。

そもそも、インターネットというものに対して、冷静なスタンスをとっていた。
インターネットを使い始めたのは早かった。
Windowsのバージョン3.1時代から、ダイアルアップ接続をしている。
パソコン通信を、黎明期から使っていたせいもあるのか、「つながったこと」の興奮は特になかった。電子メールも掲示板も、もの珍しくはない。インターネットの時代になって、「WEBサイトが見られて、さらに便利になったな」くらいの感想しか持たなかった。

去年あたり、いや、今でも?
Twitterを説明するときに「オバマ大統領も使っている」という説明をしながら啓蒙をする人がいた(いる)ものだが、インターネットの登場時は「ホワイトハウスの情報も見ることができる」が常套句だった。なので、インターネットが開通したら、私も素直に意味もなく、まずホワイトハウスのサイトを見たという、今にして思うと、懐かしくも恥ずかしい記憶がある。

「WEBサイトが見られて、さらに便利になったな」。
私はささやかに幸せを噛みしめる程度だったのだが、周囲の反応は違っていた。
インターネットは巨大ビジネスになる、と世間では大騒ぎが起きていた。

大企業はインターネット事業部なるものをつくってしまい、つくったのはいいものの、何をしていいのかわからない……という、笑い話のような相談をされたこともあった。

当時も私の仕事場は渋谷にあった。
シリコン・バレー( Silicon Valley)のValley=谷にかけて、渋谷をビットバレーと呼ぶのが流行となり、若手経営者が集まる交流会が頻繁に行われていた。私は、たまにつき合いで顔を出すことがあったが、「渋谷を日本のシリコン・バレーにするぞー、オー!」という雄叫びをあげる気にはならない。なぜならば、我が愛すべき渋谷という街を、シリコン・バレーにする必要性を、まったく感じなかったからだ。

ピピンアットマークという、ゲームソフトが遊べるインターネット端末をバンダイとアップルが共同で出したことがあった。製品名や会社名でもカフェの名称でも「@」はよく使われた。

ドットコムは「.com」は、絶好のオヤジギャクのネタとなった。
「インターネットで集客『どっと混む!』」……といった、私からしてみると、いかがわしいことこのうえないセミナーの名前を何度も見かけた。だが、そのセミナーも盛況だというから驚いた。

そんなインターネット狂想曲が奏でられていたさなか、繰り返しになるが私は冷ややかだった。

インターネットは偉大なメディアだ。
これも当時の常套句でいえば、「グーテンベルク活版印刷機の発明」以来の出来事かもしれない。

ああ、ここが私という人物の理解されにくいところなのだが、インターネットの凄さは十分に理解している。ただ、凄い通信ネットワークの出現=儲かる。プロバイダー、レンタルサーバー、ネット広告が巨大ビジネスになることはわかっていたが、その勝者はほんの一握りだろう。厳密に言うならば、どんな企業もすぐに儲かる……という単純すぎるほど単純な集団思考には、賛成しかねていたのだ。

当時、私のインターネットに対する考えはこうだった。
理想論かもしれないが、インターネットの効用。

ビジネスの視点から見れば、それは損益分岐点を下げることだ。
損益分岐点が下がることによって、今まで開業できなかった人が開業できる。
簡単な話、東京で店を開業するには数百万、数千万円の資金が必要だが、ネット上で開業するならば、そんなに元手はいらない。

このことを、思想的にいうならばデモクラシーだ。
今までは既得権益を持った人にしかできなかったことが、うーん、あまり好きな言葉ではないが大衆に開放されていく。私は、そういう積年の考えがあって、近頃話題の電子書籍をブームではなく、昔から約束されていた現在ととらえている。

以上でインターネット論は終わり。




以下はモードはがらりと変わって「あつかましい」告知です。
文章もですます調に変わります。

ゲーム作家が、作品名を冠につけて人名を呼ばれることを好まないことを知ってますが、あえて甘えさせていただくと、『バロック』『キングオブワンズ』『ぷよぷよ』『トレジャーハンターG』『魔導物語』等を、監督・脚本・企画した米光一成氏と4月に、おもしろいくらいに意気投合。彼と彼の周囲の優秀なメンバーの皆さんが主催する、「第十回文学フリマ」の電子書籍部にまぜていただき、私が書いた文章も「電書」として出品されることになりました。早い話、私は電子書籍を書いたのです。

iPadが販売されたら……
キンドルの日本語版が正式に発売されたら……
電子書籍の流通網が整備されたら……

を、待つのではなくて、まず動く。
ごちゃごちゃ言わないで、対面販売で売ってしまう。
この実験で何かを学ぶ。楽しむ。苦しむ。
その心意気に「乗った」のです。

私がどんな本を書いたのか。
内容紹介は逆に、米光一成氏がしてくれています。
詳しくはコチラをご覧ください。
どんな端末で読むことができるのか、などのFAQはコチラに書かれています。

開催日:2010年 5月23日(日)
時間:開場11:00~終了16:00
会場:大田区産業プラザPiO
(京浜急行本線 京急蒲田駅 徒歩 3分、JR京浜東北線 蒲田駅 徒歩13分)

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