
東京ゲームショウが終わりました。
イチロー選手が10年連続で200本安打の記録を達成しました。
頭に焼きつくは「こだわる」なる言葉です。
漢字で書くと「拘る」。
拘束
拘留
拘置所
拘泥
拘禁
どれもあまりいい意味ではありませんね。「とらわれている」に近い。「とらわれている」を漢字で書くと「囚われている」になります。
こだわ・る〔こだはる〕
[動ラ五(四)]
1 ちょっとしたことを必要以上に気にする。気持ちがとらわれる。拘泥(こうでい)する。「些細(ささい)なミスに―・る」「形式に―・る」
2 つかえたりひっかかったりする。
「それ程―・らずに、するすると私の咽喉を滑り越したものだろうか」〈漱石・硝子戸の中〉
3 難癖をつける。けちをつける。
「郡司師高―・って埒(らち)明けず」〈浄・娥歌かるた〉
[補説]1は、近年、「一流の材料にこだわって作った料理」のように、妥協しないでとことん追求するような、肯定的な意味でも用いられる。
◇『デジタル大辞泉』より
こだわ・る【拘る】(自五)
1 △どうでもいい(とらわれてはならない)問題を必要以上に気にする。
用例・作例
△自説(メンツ・目先の利害・枝葉末節)に―
2 他人はどう評価しようが、その人にとっては意義のあることだと考え、その物事に深い思い入れをする。
用例・作例
カボチャにこだわり続けた画家
△材料(ライフスタイル・鮮度・品質・本物の味)に―
〔2は、ごく新しい用法〕
◇『新明解国語辞典(五版)』より
元の意味の「拘る」は良くない意味なのですが、「近年、肯定的な意味でも用いられる」ほうの「こだわる」が大流行。使われる頻度は、圧倒的に「新しい用法」のほうが多いのではないでしょうか。
テレビ番組のテロップもナレーションも、広告のコピーも、雑誌のインタビューも……そうそう東京ゲームショウでのトークイベントも「こだわる」「こだわり」が多用されています。
私は「こだわる」を使うな、などとは申しません。
ふたつの用法があり、その原義は悪い意味だとわかって「こだわる」を使っているのと、何も考えずに「こだわる」を使っているのでは、会話や文章の深みが違ってくるのではないか。
それと「こだわる」は、焦点をぼやかす言葉。「この作品で、こだわった点はどこですか?」はインタビューになっていません。インタビューっぽいことをしているだけです。「プレイヤーにはわかりにくいかもしれませんが、作り手として工夫を凝らしていて、ぜひ、見てほしい点はどこでしょう?」のように尋ねれば、話は掘り下がっていくのではないか。そんなことを、かねがね思っていました。
東京ゲームショウ後に書いた原稿で、意を決してゲーム業界の体質を「適正開発をしないで過剰開発をしすぎている」という趣旨のことを述べました。これは原義を忘れた「こだわりの美化」が、過剰開発に歯止めをかけられなくしてしまっているのではないか。……という考えのもとに書かれています。
これは、私という「こだわる」に「拘る」人の見解です。