Hisakazu Hirabayashi * Official Blog2011年05月

ゲームモードはしなやかに分散する

昨日のつづきです。
ソーシャルゲーム論ノート(下)‥‥平林久和「ゲームの未来を語る」第17回
http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=3679

にて、こんな記述があります。

たとえば、レースゲームがある。きれいグラフィックスで3DCGを見るのは家庭用ゲーム機がやることだ。

レーサーを育成するのはスマートフォンで操作する。スマートフォンで長時間レースゲームは遊べない。だが、一日数回のコマンド操作で、レーサーのトレーニングメニューを選ぶことはできる。その結果は、自宅に帰ってきれいな画像で見ることができる。

タブレット型のPCもうまく使いたい。私は前回、タブレットPCは「ページめくりをしたい」と述べたが、そう、レースゲームならば、世界の名車カタログが電子書籍のように読めるのだ。攻略本やファンブックはタブレット型のPC向けに販売されてもいい。

今までのゲーム、とりわけ家庭用パッケージゲームは、プレイモードとプレイスタイルは、ひとかたまりのソフトウェアの中に閉じ込められていた。ひとつのソフトウェアに多種のモードがある。それを単一ハードで遊ばなくてはいけない、というのが常識だった。そのソフトウェアのつくりに、顧客は自分のライフスタイルを合わせなくてはいけなかった。

逆だ。
顧客のライフスタイルに合わせるために、端末を分散させ、ゲームモードを分割させるのは、未来のゲームのひとつの選択肢ではないだろうか。


この文章。わかりにくいな、と自覚していました。
平易な言葉で書いても、ゲーム業界の方が読んでも、すんなりと入ってこない概念だと思っていました。
補足説明をします。

この記事を書いたときに意識していたのは『グランツーリスモ5』でした。
私はこのゲームは相当やりこみました。
ドライバー育成モードでは、実時間で24時間、プレイステーション3を稼働させっぱなしにして遊びました。
なぜ過去形かというと、震災以降、節電の妨げになるので24時間連続のゲームプレイはやっていません。

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▲24時間耐久レースの場面


そして、この24時間のうちに、レースで勝って賞金を稼ぐ行為をするのと同時にドライバーを育成します。
このゲームモードでは、4人を出場させることができます。

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▲ドライバーの選択画面


私はプレイしながら、思ったのです。
この耐久レースでは、どのタイミングでレーサーを交替させるか、ピットインした際のタイヤは耐久性はあるが、グリップ力が落ちる。逆にグリップ力がありスピードは出るが耐久性はない。
こういう指示は、プレイステーション3の前に座って操作をしなくても、スマートフォンでコマンド操作をすればできることでもある。外出中にレースの様子が知りたければ、テキストで表示されるだけでもいい。

さらに『グランツーリスモ5』には、300ページを超えるブックレットがついています。
ブックレットというよりは、クルマの辞典のようによくできた本です。
これは初回限定版に同梱されているのですが、電子書籍のようにタブレットPCで読みたいと思いました。新車は次々と追加されます。ゲームソフトと同様に電子書籍ならばブックレットもアップデートできます。そして、電子で配信した方が製品コストが下がり、論理上、価格も安くなるはずなのですね。

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▲Apexと書いてあるのが豪華仕様のブックレット


プレイヤーが操作するレースゲーム。
ドライバーの育成ゲーム。
ブックレット。

これらが、ひとかたまりになってパッケージソフトは構成されているのですが、一枚のディスク、ひとつの箱に閉じ込めるのではなく、端末ごとに分散させる。こうした遊びの方向転換は「忙しい」と言っている現代ゲームユーザーの新しいプレイスタイル=生活スタイルに適合させる可能性に満ちたゲームだと思ったのです。

『グランツーリスモ5』は、グランツーリスモ・ドットコムでブラウザゲーム的な遊びの要素を取り入れてました。同サイトでは、アイテム課金のようにグランツーリスモTVの動画を少額で販売しています。

『グランツーリスモ5』は、完全ではないけれども明らかに、ソーシャルゲームとパッケージゲームが今後、融合していくサインを含んだものでした。

ひとつのソフトのシームレス化というか。
数十年続く、ゲームモードなるものの役割は、しなやかに分散していくことを夢見たわけです。

(つづく)


ソーシャル性はおかしい

ご愛読ありがとうございます。
いつも、月に2回掲載している「ゲームの未来を語る」ですが、今月は月1回にさせていただきます。そのかわりにE3 2011(Electronic Entertainment Expo)が開催される6月は特別シフトになります。多数のエントリーを入れていく予定です。

今月の後半は、「ソーシャルゲーム論」のノートをつづっていきます。

ソーシャルゲーム論ノート(上)‥‥平林久和「ゲームの未来を語る」第16回
http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=3613

ソーシャルゲーム論ノート(下)‥‥平林久和「ゲームの未来を語る」第17回
http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=3679

の非公式な続きだと思って、お読みください。
私は、

社会の本来の意味と、派生語として生まれたソーシャルゲームは、同列に扱うには抵抗感があり、私の言語感覚がざわめいたのだ。

今、使われているソーシャルゲームは、適訳ではない気がしてきた。

社会のありようと、ゲームが結びついておもしろいもの。それはすべてソーシャルゲームではないのか。


と、書きました。すると、気になるんですね、ソーシャル性。

■ソーシャル性

ソーシャル性はおかしな言葉づかいだと思う。Socialは形容詞だ。ソーシャル性は、ビューティフル性や、ワンダフル性や、スペシャル性や、オフィシャル性と同じくらいに私の言語感覚にピキッと来る。「その特性を持つ」の意味の性のまえにくるのは、名詞がおかれるのが原則だ。県民性、可能性、エンタテインメント性、アルカリ性‥‥これらは正しい使い方。男性も正しい使い方だ。でも、マニッシュ性はおかしいぞ、と。

通信機能があって、仲間と協力プレイができる。そんな、ゲームの企画書に「ソーシャル性を加味した」などと書いてあるのを読むと、つづきを読む気が薄れる。

ソーシャルゲームの台頭とともに頻用される語句だが、使ってほしくない言葉だ。
余談だが、「リアル感」もおかしな言葉づかい。「リアリティを感じる」が正しい外来語と日本語の接尾辞、接尾語の結びつき方だ。

(つづく)

ソーシャルゲーム論ノート・下

公開されました。
ソーシャルゲーム論ノート(下)‥‥平林久和「ゲームの未来を語る」第17回
http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=3679

(上)(下)のノート。
書いていて、大変僭越なことではありますが、思い浮かべたのは、マイケル・サンデル先生の『これからの「正義」の話をしよう』でしたね。

1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはそのひとりを殺すべきか?
金持ちに税金を課し、貧しい人々に分配するのは公正なことだろうか?

こうした問題を解くのは、法学や経済学ではなく、「正しい行いとは何か?」を考える哲学だ、というスタンスで書かれた名著です。

ソーシャルゲームの将来は、「PV数」とか、「課金率」とか、「会員数とか」とか、テクニカルに分析をするのではなく、Socialとは何か? いったん立ち止まって哲学をするプロセスが必要だと思いました。

まだまだ未完のノートですが、ご一読ください。

ノートの終盤に出てくる『完訳 キーワード辞典』。
この本も名著です。私の愛読書でもあります。

 

絶対 美人アイテム100

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宣伝させてください。
そして御礼を述べさせてください。

妻が本を書きました。
「絶対 美人アイテム100」という題の本です。
去年から約1年間、書いていました。

その執筆過程をずっと隣で見ていたから、できる話しをします。
妻はスタイリストです。
服はコート、スカート、ジャケット、シャツ、パンツ。
その他、靴、バッグ、帽子、ジュエリー、時計、ハンカチまで。
女性が身につけて美しいものを見つけてコーディネート。おもに女性ファッション誌に掲載することを仕事にしています。

本書を書かないか? とお声をかけてくださったのは文藝春秋の編集者の方でした。
妻は千載一遇の機会を得たことになります。
しかし、満足するものをつくろうとすると、膨大な予算がかかってしまいます。
そこで、文藝春秋の担当編集者の方と、お願いごとの連続となります。

ギョーカイ用語で物撮り(ブツドリ)と言いますが、ファッションアイテムはたいていスタジオで撮影します。しかし、妻、いやスタイリスト・河井真奈は「ただのモノ紹介の本にしたくない。生きている場面を撮る」ことを理想としていました。そのためには、100アイテムに適したシチュエーションで撮影することが必須となります。

この考え方に賛同してくださり、すべての撮影におつき合いいただいたのは、人気カメラマンのHijikaさんです。ひとつひとつ丹念に、場面づくりをしてアイテムを撮影していただきました。なかにはモロッコで、ギリシャで撮影した写真もあります。お陰様で、本書は美しい写真集のようだ、との評価もいただいています。

本書は見開き単位で1アイテムを紹介しています。
左ページに全面写真。
右ページ上段には、ブランドの歴史や各アイテムが生まれたエピソードなどが書かれています。
右ページ下段には、実際に身につける際のアドバイスが書かれています。

上段には「パテックフィリップの170年間の歴史でつくった時計の生産量は、今のスイス時計の年間生産量の1%にも満たない」といった物語が。
下段には「ティファニーのパールのロングネックレスは、長い部分を110cmにすると美しく見える」といった実用情報が書かれています。

本のグラフィックデザイン、アートワークはGRAPHの助川誠さんにお願いしました。GRAPHの鶴見社長は、妻とはママ友。お子様が通う学校が、ウチの長男と同じというご縁がありました。アートディレクターの北川一成さんは、偶然にも私が記事を書かせてもらった後藤裕之氏(@gotohiro314)と親しいご関係でもあります。

制作スタッフの皆さまは、普通にご依頼しては、まずお断りされそうな話にもかかわず、情熱とご厚意によって本づくりに参画いただきました。

夫、いや元出版社社員の私としては、全224ページでオールカラー。細かいことですが、帯は二重折りになっていて帯の裏面もカラー写真入り、色違いのしおり紐も二本ついている。それで1700円 (税込)は考えられない価格設定です。



さらに、文藝春秋の方たちの懐の深いことに、モデルのSHIHOさん(@shihoakiyama)のほか、講談社・「Grazia」元編集長、温井明子さん。光文社・「VERY」編集長、今尾朝子さん。他の出版社の方の推薦文も頂戴し、表紙に掲載しております。出版界では珍しいことだと思います。これも、スタイリスト・河井真奈の要望をご海容いただいきましたお陰です。

じつは、本書。
震災の影響で発売日が大幅に遅れそうになったこともありました。
紙が調達できなかったのです。

ですが、これも幸運なことに本書に使う紙の製紙工場は被災からまぬがれ、出版できることになりました。
しかも、紙を調達してくださった製紙会社の方も多数、出版記念パーティに来てくださり、とても喜んでいただけました。お話をうかがうに、本書は新しい種類の紙だそうで、その新製品を「良い本にしていただいた」と、私が何度も御礼のお言葉を頂戴いたしました。

本書は4月30日に全国書店の店頭に並びました。
本の中味の評価は読者の皆さまが決めることです。

ですが、本の制作過程を1年間、見てきた私は、関係者の皆さまのお気持ちが授けてくださった、224ページオールカラー、1700円。普通に編集・制作しては、できなかった本だったと言い切ることができます。

本書は生まれるまでの経緯が特殊な本だったのです。
皆さま、どうもありがとうございました。

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