プロジェクトリーダーの器量
- Day:2011.04.19 09:30
- Cat:エキスパートブログ
震災が起きた直後から大事故が起きていたのに、隠していたのではないか、と。
誤解や非難を恐れずにいえば、私は政府・首相官邸の気持ちがわかる。
規模ははるかに違うが、ゲームづくりの現場でも似たことがあるからだ。
たとえば……100人の開発チームで2年かけてゲームソフトをつくった。
だが、発売元の判断で、そのソフトが世に出せなくなった、としよう。
こういう不幸なことは珍しくない。
ゲーム業界では、しばしば起きる現象だ。
こんな状況におかれたプロデューサー(開発会社の経営者)だとしたら、どうするだろう?
「さあ、皆さん、集まって。私たちが2年間かけてつくったゲームがボツになりました」。
以上報告でーす。
と言ったら、バカだ。
自分で自分が無能だと言っているに等しい。
リーダーは方策を考える。つくったゲームに欠点があれば、修正して予定通りに発売しようとする。
プロモーションなど販売方法に問題があれば、良いプランはないかと知恵をしぼる。
発売元Aがダメならば、発売元Bに持ち込んで、プロジェクトを生き返らせる方法はないかと考える。
つまり、重大事が起きたとき、リーダーは「一斉に」「即時に」「同一の」情報を流すことは、けっして得策ではない、と咄嗟に判断するものだ。重大事をリカバーしようと、部下からは見えないところで、懸命にもがくのが、習性となっているのだ。
リーダーに悪気などまったくない。
事実を公開しないことがリーダーの職務だと思っている。
しかし、組織の構成員である部下も賢い。
開発現場の上層部が、ワサワサとしている雰囲気は、同じ社内にいれば、伝わるものである。
これを放っておくと、開発チーム内に悪い噂が流れることになる。
そして噂は多くの場合、現実よりも悲観的な憶測を含んだものになる。
たとえば、あるプロジェクトが失敗して発売中止の危機が訪れている。
……というのが起きていることの事実だが、「我が社はもうすぐ倒産する」「大量リストラがある」と、たいてい話に尾ひれがつくものである。この悪い噂は、悲観的であると同時に将来の自身の不安な気持ちとが重ね合っているケースが多い。
では、そういう悲観的すぎる噂が広まらないようにリーダーは何をするのか?
情報提供の階層分けをする。
本当のことを知っておいてもらいたい信用できるグループ。
周囲が悪い噂を言ったとしたら、それを食い止めるグループなど。
階層分けをして事実を話す。
情報を小出しにすると言い替えてもいい。
火中の栗を拾うような覚悟で、最も危険な噂の元になりそうな人物と1対1で事実を話す、こともある。
ある種、サシで勝負をするようなものだ。
あるいは、100人のチーム内で情報伝達ルートがしっかりとしていればリーダーはどしりとしているのがいい。
そのまわりで説明力があり、チームマネジメントがうまいスタッフの力を頼り、最悪の場合を事前に説明しておく。何も知らないメンバーに心の準備をしてもらうこともある。
だが、最悪の話をするだけではいけない。過去に働いたことへの敬意を十分に重んじ、その労をたたえなくてはいけない。そして、その最悪の向こうには、どんな希望があるかを伝達する必要もあるのだ。さもないと、スタッフは、やりきれない気持ちになるだけだ。
私はこういうプロジェクトの危機を何度か体験してきたので、政府・首相官邸の気持ちがわかる、と言っている。
通常のトラブルならば、そんなやり方でなんとか収まるところに収まる。
だが「命」がかかわると話は別だ。
起きたトラブルは通常ではない。
通常ではないからリーダーは通常のふるまいをしてはいけないのだ。
トラブルには「通常のトラブル」と「超常的トラブル」があることが、このたびの震災で思い知らされた。
いつもより、もう一段も二段も高いところにあるトラブルというのがあって、これは「通常のトラブル」に慣れている人がマネジメントをすると、かえっておかしくなる。冷静にプロジェクト・マネジメント、プロデュース、経営の観点からみると、そんな教訓を得た。
では、「超常的トラブル」が起きたらどう対処すればいいのだろう?
今の政治家が間違っていることはわかっているが、科学的な解決方法はわからない。
ただし、どういう人物ならばこの困難を克服するかは、経験上、わかる。
(1)底抜けに明るい人
(2)意外におとなしくて静かに話す人
(3)愛がにじみ出ている人
(4)情熱家
(5)運がいい人
(6)日頃から尊敬されている人
(7)美しいエピソードを持っている人
この天災のような人災は思考やアイデアや工程表よりも、リーダーの器量が解決してくれる。
では、リーダーの器量とは何かというと、禅問答のようだが上記(1)から(7)をなるべく多くそなえていることを指すのだろう。