Hisakazu Hirabayashi * Official Blog私の夢を断った男

私の夢を断った男

  • Day:2011.07.12 14:00
  • Cat:私…
「学ぶ」には、新しい知識や知恵を得ることの裏側に自分の限界を知る、という効用がある。イチローになりたい少年は、野球を学ぶことによって、自分がイチローになれないことを知る。

私は小学生時代、プロの将棋棋士になるのが夢だった。当時、アマチュア初段だった。だが、同じ歳の棋士に天才少年とうたわれた谷川浩司がいることを知った。

父に言った。
「学校のクラスでは強くても、谷川浩司には絶対勝てないよ。棋譜を見ればわかるんだ」。

ソファで横座りしていた父は、私の正面に身体の向きを変えて、
「久和、オトナになると同じ歳どころではない、年下の人間に負けることだらけだ。将棋で負けるより、もっと悔しいことがある。覚えておきなさい」。

父の言葉はわかったが、意味はわからなかった。

中学生になると、やんちゃ坊主は一転、部屋にこもって本ばかり読んでいる文学少年になっていた。『人間失格』という一冊に出会ってから、太宰治という病にかかった。日本文学、海外文学、手当たり次第に読書をした。わかりもしないのに、ドストエフスキーなども読んだ。プロ棋士になりたかった少年は、小説家になりたくなった。

いかにもダメな学生が考えそうなことだが、小説家にすぐにはなれないから出版社で働くことにした。しかし、配属されたのはゲーム専門誌の編集部だった。

ゲームは好きだったが、専門誌の編集できるほどの知識はなかった。
学んだ。そのなかには当時、高校生や大学生もいた。彼らにゲームはただのゲームではなく、そこから作者の意図を読み込んだり、単体として遊ぶのではなく、過去のゲームと系譜を考えながら遊ぶものであることを知った。当時の若手スタッフ、皆が尊敬の対象だった。

父の言葉の意味が、身にしみてわかった。
ゲームがわかってきた。

『ウィザードリィ』というゲームを見たとき、これは小説にできる、と思った。
企画が通り、連載を開始した。書いたのは、ベニー松山のペンネームを持つ当時、大学生だった。

初回の原稿を受け取ったとき、頭がクラクラとした。
「。」で区切らない長い文の連続が、心地良いメロディを奏でている。それでいて意味がわかりやすい。とてつもない語彙群の中から、最適な言葉を選んだことも一読してわかる。谷川浩司だ。彼には勝てないと思った。皮肉なことに、小説が好きで小説の企画を考えたら、それが自分が小説家になれないことを知るパンチを浴びた結果となった。

編集者として、誇りをいつも感じながら彼とは仕事をした。
のちにこの連載は書籍『隣り合わせの灰と青春』になった。

時は過ぎる。
これは、Wikiepediaの平林久和の項にも載っているが『DT』というゲームボーイソフトの開発にかかわった。昔から師と仰ぐ遠藤雅伸さん率いるゲームスタジオとの仕事だった。このソフトは、今から振り返ってみれば、出す時代が早すぎた。カードゲームの体裁をとっているが、そのカードの説明がハイパーテキストのように読めるという、文学を目指していた。それこそ、今なら電子書籍で出版したい内容だ。

ゼビウス、ドルアーガの塔を作った遠藤雅伸監修ソフト
基本的にはカードゲームだが、
カード毎に記述された詳細なテキストがすごいです。
テキスト量だけで「ファイナル・ファンタジー6」程度の容量を費やしているそうです。
単なるカードゲームでは無く、DTの世界にはまれる一本です。

*Amazonレビューより引用

このシナリオを書いたのが、一圓光太郎@k_ichien)だ。
彼と初めて会った瞬間に、有り余る知識と文才があり、どんな大作も軽々と書ける人物だと直感した。この直感は当たった。さらに、(1)重厚な内容を重厚に書く。(2)重厚な内容を軽妙に書く。(3)軽妙な内容を重厚に書く。(4)軽妙な内容を軽妙に書く。この4パターンを使いこなす術を、完全に我がものにしている。

カードの説明文と物語の背景に、作者ならではのトリヴィア(trivia)的な付加要素が書かれているが、書きすぎることなく、書き足りぬこともなく。天賦の才が、その配合バランスをつかさどっている。

『DT』の登場人物が多いが、印象に残る「文字」を刻むことによって、プレイヤー=読者のイメージが広がる“しかけ”が凝らされている。言葉のマジックを見ているようだった。彼もまた谷川浩司だ。

将来、小説家になりたいと思っていた少年は、オトナになって、ふたりの才能に打ちのめされた。
自分の才能を斬って捨てられたと言ってもいいくらいだ。

斬って捨てられて心地よい。
それが「学び」だからだ。

私は執念深いが、嫉妬深くない。
息子を、他人の才能に嫉妬する性格にさせなかった父、ときに感謝する。

   

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