Hisakazu Hirabayashi * Official Blog『隣り合わせの灰と青春』・電子書籍で復刊!

『隣り合わせの灰と青春』・電子書籍で復刊!

ダンジョンRPGといえば聞こえはいい。
今から30年以上も昔のこと。
コンピュータは悲しいくらいに力不足だった。
ゲームの背景に、絵柄を描くことすらできない。
何もできない。
コンピュータが何もできないということは、そこを真っ黒にするしかない。
『スペースウォー!』『スペースインベーダー』。
黎明期のゲームに、スペース(SPACE)がついた題名が多いのは、殺風景な黒い背景を宇宙の色に見立てたからだ。
黒の見立ては、もうひとつあった。
黒、そこは洞窟内の暗闇である、という設定もなかなか好都合であった。
ダンジョンRPG・『ウィザードリィ』がその代表作だ。

1980年代の終わりの頃、アメリカ生まれのPCゲーム『ウィザードリィ』がファミコンで遊べるようになった。これは原作をしのぐほどの傑作で、ゲーム専門誌の編集者だった私は、ただ紹介記事をつくるだけでは物足りなかった。

『ウィザードリィ』をプレイしていると誰もが感じる想像の広がり。
活字の力で、さらに想像を膨らますことを仕掛けたい、という熱情に駆られた。
いわゆるノベライズであるが、もっとスケールの大きな。具体的に言うならば、ゲーム枠外のことを、ゲームの枠内のルールに準拠して、作者が創作をしていることを目指した。

誰が書いてくれるだろう? 
迷いのなかで出会ったのが、のちに筆名・ベニー松山となる、19歳の青年だった。
彼は他誌に『ウィザードリィ』のことを書いていた。
一読しただけで文才があることが伝わってきた。
彼に書いてほしかった。男が男を口説いた。
『ウィザードリィ』の小説を書いてもらえないか? と話を持ちだしたのは、私が23歳か24歳の頃だった。

書き手との打ち合わせを重ね、編集部内のページ取り、連載のデザインフォーマットとイメージビジュアルの作成などなど。これらの段取りを経て、いよいよ連載開始となった。

締切日の深夜、ファクシミリが編集部に届いた。
横書き用の200字詰め原稿用紙だった。

 そこは、漆黒の世界であった。
 一筋の光とて存在しない、冷えきった地の底の世界。


この2行を読んだだけで、私の躰は震えた。
ただの真っ黒い画面を迷宮にしたてた『ウィザードリィ』の作者も作者だが、その黒をどう文字で表現するか。もう一度書くが、

 そこは、漆黒の世界であった。
 一筋の光とて存在しない、冷えきった地の底の世界。


完璧な黒の描写だった。人の手が書いたものではなく、神が「答え」を授けてくれたような気さえした。書き出しで圧倒された私は、じつは処女作である彼の小説に引きこまれていった。
デスクに座ることなく、ファクシミリの受信機の前で連載初回の原稿を一気に読んだ。
原稿用紙から、才能という名の蒸気が湧き出ているようだった。

私は、中学生の頃から、いつか小説を書きたいと思っていた。
この思いは、ハタチを過ぎても変わらなかった。いかにも浅知恵の学生にありがちな短絡思考で、学校を卒業したら出版社で働けば小説家になれるのか。その程度の志望動機で社会人になった。

だが、その夢を打ちのめしたのは、ベニー松山『隣り合わせの灰と青春』、連載初回の原稿だ。文章の構成力、語彙力、リズム感、何をとっても私は負けている。

悔しくなかった。自分の才能のちっぽけさが、呆れて笑えるような気がした。そして、それは不思議と快の感情であった。気持ちよくて気持ちよくてしかたないほどの敗北をして、私の人生設計は、組み直しをしなくてはいけないことになる。

私は、ひとりの大学生をベニー松山にしてしまった。他人の人生を変えてしまった。
だが、彼もまた、私の人生を変えた男なのである。
お互いに人生を変えてしまったコンビなのかと思う、今日、この日。
『隣り合わせの灰と青春』が電子書籍となって復刊された日です。

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  • 2013/10/16 18:44
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