Hisakazu Hirabayashi * Official Blog盲人の方に怒鳴られた思い出

盲人の方に怒鳴られた思い出

  • Day:2009.06.10 00:07
  • Cat:私…
昨日、ピアニスト、辻井伸之さんのエントリーをしたが、全盲の方にまつわる、私自身の苦い思い出がある。

あれは、コナミという会社の東京支社が、まだ九段下にあった頃だから、20年以上もまえのことである。

同社に取材に行くため、地下鉄の九段下駅で降りた。

すると駅で、盲人の方が私の目に止まった。
白い杖を持っている。たどたどしく、ホームを歩いている。
その歩みは遅く、左右に揺れるがごとく歩いている。

盲人の方でも、すたすたと歩き、素早く角を曲がり、立ち止まる。
杖と音感や触感を頼りに、機敏に動かれる人がいる。
こういう言い方が正しいかどうか、わからないがベテランの技を見るようである。

だが、その時、私が見た方は、白髪頭だったことを鮮明に覚えているが、ベテランではなかった。

「昨日から、はじめて杖を使って外出しました」と言われても驚かないくらいに、杖の使い方が不慣れであることがはた目でも、すぐにわかった。

ということは、場所が地下鉄のホームであるだけに、線路に転落するのではないかと思うくらいに、危険だったのである。

その男性が改札口に向かいたいことはわかる。
私は「ご案内しましょうか?」と声をかけた。「お願いします」と言われた。
歩いている盲人の方を、このようなカタチで案内するのは、初めての体験だった。

「段差があります、お気をつけになって」
「右に曲がります」
「あと2メートルほど進みます」

と、言えばよかった。しかし、私は……

「ここに段差があります」
「そこを右に曲がります」
「あっちに進んでください」

と、言ってしまった。
こうして数分間、一緒に駅の構内を歩いていたら、突然、その男性は憤怒の表情を浮かべ、私を大声で怒鳴った。

「『あっち』『こっち』って言うな! 俺にはわからないんだ!」


気が動転した。
確かにその通りなのである。
目が見える人から道を尋ねられたら、手振りで「あっちに進んでください」で道案内の目的は果たしたことになる。

だが、目が見えない人にとって、私が手振りで「あっち」「こっち」というのは、たまらなく屈辱的で、フラストレーションが貯まったのであろう。

しかし、私は心の中では、その方を助けて差し上げた……という意識がある。
ホームにいた他の乗客はいなくなってしまった。
急いでいるのに、ホームに残って案内をした。
ようは、私自身、自分は親切なことをしたと、思い上がっているのだ。

にもかかわらず、怒鳴られた。
理不尽といえば理不尽である。
怒鳴られて当然といえば当然である。

その時に起きた出来事を、どうとらえていいのかわからず、ゆえに、気が動転したのだった。

怒鳴られた。
でも、どう考えても、怒鳴りかえす話ではない。

ともかく改札口を出るまではきちんとご案内しようと、「申しわけありませんでした」と詫びて、「あっち」「こっち」のような指示語を使わないで案内することにしたのだ。

その結果、首尾よく目的地に着き、私は「ありがとうございます」と言われ、「どういたしまして、こちらこそ申しわけありませんでした」と返礼できたならば、美談である。

ところが、現実はどうだったろう?
怒鳴られたあともなお、私はつい口癖で「あっち」「こっち」と言ってしまう。
「失礼しました」と訂正することがしばしば。私の案内下手は、いっこうに改善されない。

そして、その盲人の方からは、ひと言もお礼を言われずに、無言で私が向かう反対の方向へと歩いて行かれた。たどたどしい歩き方で。

地下鉄で九段下を通過したり、下車したりすると、今でもこの“事件”を思い出す。
どんよりとした気持ちが心に淀む。
後味の悪い数分間の出来事だった。

だが、盲人の方を案内するとき、何に注意すべきかを学んだ出来事でもあった。

Comment

ためになるお話です
私には経験がありませんが、いざというときに、どうしたらいいか、ためになりました。

いつも感心するのですが、日ごろの観察力と昔の記憶力。
平林さんは超人的ですね。
  • 2009/06/12 12:56
  • jyun
  • URL
jyunさん、コメント、ありがとうございます
もったいないお言葉……。

日ごろの観察していないことを書かず、書けず、昔の記憶がないことを書かず、書けず。

だけのことではないでしょうか?
  • 2009/06/13 21:06
  • 平林久和
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