Hisakazu Hirabayashi * Official Blog幸福な家庭のシンボル、Wiiの失速に思う

幸福な家庭のシンボル、Wiiの失速に思う



東野圭吾の『容疑者Xの献身』。
小説も好きだが、映画も好きだ。

映画のラストシーンに、石神哲哉(堤真一)のナレーションが入る。
真相を聞いているだけでも泣けるのに、彼が恋した花岡靖子(松雪泰子)に「幸せであってほしい」と願うセリフの背景で、任天堂のWiiが写る。花岡靖子は、娘と楽しそうに『Wii Sports』やっている。このシーンがまた涙をそそる。

テレビゲームの存在がバッシングされることは、しばしばあった。学校を卒業して以来、ずっとゲーム業界に身を置いてきた私は、肩身が狭い思いをすることは、慣れっこになっていた。『ゲーム脳の恐怖』などという本が出版されたのは、02年のことだった。21世紀になっても、まだそんなことを言っている人がいた。

苦い思い出の積み重ねがあるからだろう。
ほんの数秒間だが、幸福な家族の光景のシンボルとしてWiiが写ったことは、ストーリーとは、また別の感動となって、体内に熱い感動がこみ上げてきた。Wiiの開発にたずさわった方々は、『容疑者Xの献身』のラストシーンをご覧になったら、きっと同じように思われるのではないだろうか。

ところで……
任天堂の今四半期決算が発表された。
昨日のエントリーに書いたように、本発表を特別に注目していた。

数字が良くないのは、予想がついた。
しかし、経常利益が63.4%減少。そこまで悪いとは思っていなかった。
今日の株価は……これも昨日書いたように、証券アナリストの方たちに分析はお任せしよう。

私が目を疑い、良くないと思ったのはWiiの販売台数だ。
4-6月で21万台しか売れていない。
クリスマスシーズンとはいえ、昨年の10-12月には200万台近く売れていたのに、である。

大阪市内で会見した岩田聡社長は「私たちは必ずしも四半期ごとにヒットソフトを順番に当てはめていく考えではなく、通期でどのようにビジネスを最大にしていくかという観点でビジネスを展開している」と強調した(ロイターより)。

確かにおっしゃる通りだろう。だが、プロゲーマーでプロ経営者である岩田社長は、この数字はソフトに左右された変動値でも、季節要因でもなく、最悪のケースもありうることを想定なさっていても、おかしくない。

私は過去に、体感ゲームのブームは、短命になる傾向があることを書いた。
現時点のWiiは、この問題を根本的に克服していない。
最悪とは、製品ライフサイクルにおけるWiiの普及期は終わり、衰退期へ突入した、という意味である。

それと、もうひとつ気になるのは利用者像である。
Wiiは、両親とふたりの子どもがいる一家を想定してつくられたハード……の匂いがする。
富士には月見草がよく似合うなら、Wiiには4人家族がよく似合う。
まさに、家族団らんのためのハードだ。

ひとりで遊ぶ『Wii Fit』や『Wii Sports』は、どんなにソフトがよくできていても、そういうことをしている自分が虚しくなるものだ。

統計は古くなって平成17年のデータになるが、国勢調査で「世帯の状況」を調べると、(私の独断かもしれないが)Wiiがよく似合う4人世帯は、全体の15%しかなかった。
setai.gif
そして、最も多い「世帯人員ひとり」を、Wiiというハードは、取り逃がしているように思える。
これまた昨日のエントリーの延長のようになるが、「有力タイトルの投入」といった、いかにもゲーム業界らしい文脈ではなく、「世帯の状況」という社会情勢と照らし合わせることによって、Wiiの次なる突破口があるのではないだろうか。

Wiiの普及が、急ブレーキをかけたかのように止まったのは、なんだかWiiが似合う幸福な家庭が少なくなってしまったような現実? 錯覚? を感じた7月最後の日であった。

Comment

ちょっと本題から外れますが…
お料理の本の話です。

以前は材料はだいたい「四人分」で書かれていたのがが普通でした。
そして「二人分」が少し出て、今は「一人分」が増え始めています。
さらに男性向け自炊のススメ、男性が自分のために自分で作る「お弁当」の本がヒットしました。

以前、私の日記に書きましたが、生涯未婚率(50歳の時点で一度も結婚していない方)が年々増えています。

お料理の本の材料とゲームありかた…今回のエントリーを拝見してたら遠くて近いものを感じてしまいました。
「団欒」の単位の変化なのでしょうか…。
  • 2009/07/31 02:48
  • 野良女
  • URL
無茶苦茶ですな…
4人家族にあらずんば幸福な家族にあらずって事ですか?
家族が1人2人減る減らないでそんなに消費性向が変わるデータはあるんですか?

そもそも任天堂の売上に占める国内の割合は2割程度なので層だとしてたいした意味は無いです…
  • 2009/07/31 07:23
  • URL
野良女さん、コメント、ありがとうございます
料理、料理本にそんな変化が起きているのですね。
本題から外れておらず、遠くて近いものを教えていただきました。ありがとうございます。
unknow(無記名)の方へ
>4人家族にあらずんば幸福な家族にあらずって事ですか?

いいえ、違います。
誤解いただかないために、申し上げたいこと多々ございますが、所帯人数と幸福を結びつけたエントリーではないことだけはご理解くださいませ。
ならば何故、4人家族という数字を特別視するのですか?
  • 2009/07/31 10:19
  • URL
お答え申し上げます
>ならば何故、4人家族という数字を特別視するのですか?

お答え申し上げます。
4人で遊べるソフトが多いからです。
これはWiiに限ったことではなく、任天堂が過去に発売した家庭用ゲーム機、NINTENDO64(96年発売)、ゲームキューブ(01年発売)も同様でして、コントローラの挿入口が4つあり、任天堂は4人同時プレイ、4人対戦ができることを10年以上もまえからマーケットに向けて提言してきました。その4人機能をいかしたソフトが多いのは、任天堂製・家庭用ゲーム機の特徴です。

つけ加えますと、過去のNINTENDO64、ゲームキューブは友人同士が4人で遊ぶことを前提に設計されておりました。

ですが、Wiiでは「友人同士だけではなく、家族でも遊んでほしい」の設計思想が込められています。Wii発売前から、岩田社長は「一家の皆さんに楽しんでいただく」ことを再三述べられておりました。また、Wiiのメニュー画面では似顔絵を作成・登録するのですが、この画面では「家族」を登録をしたくなるような設計になっております。

○ご参考
http://wii.com/jp/movies/mii-01-jp-a/

最後に私からのお願いでございます。
本件に関するお問い合せは、コメント欄ではなく本ページのメールフォームよりお寄せくださいませ。
申し上げたきことあり、承認願います
私は今日の平林さんの記事を見て、泣きそうになりました。
『容疑者Xの献身』を見て泣く。
そこに写ったWiiを見てなく平林さんがいる。
それを読んだ私は、その平林さんらしい優しさに感動しまして、泣きそうになりました。

私は金融機関に勤務するものですが、今日のニュースやブログは任天堂叩きばかりでしょう。でも、平林さんのブログだけは違っていて、Wiiや任天堂への敬意と愛があって、そのうえで建設的なご意見も書かれています。

いつもそうですが、私自身、別の視点で任天堂を見ることができ、ためになりました。

でも、無記名で発言なさっている人がいて、平林さんは一生懸命に敬語を使ってお返事している。

挨拶もなければ御礼もなくてそれは失敬だと思いました。
私がブログ炎上の火付け役になっては元も子もないので、あえて矛先を平林さんに向けます。

優しすぎますよ、平林さん!

匿名氏が、どういうお方か存じ上げませんが、平林さんのお話はお金払って聞くもので、お金払って読むものなんです。私たちの常識では!!

「任天堂の売上に占める国内の割合は2割程度」は釈迦に説法もいいところで、平林さんも内心は怒ったでしょうね。にもかかわらず、丁寧に説明をしてくれているのですよ。

今の任天堂に、これだけ堂々とものが言えるのは、平林久和しかいません。他の腰抜けマスコミや、いい逃げマスコミとは違います。

本質を見る目があり、造詣があり、千里眼もお持ちで愛があるからです。

平林さんはたまに、大胆な任天堂批判をしますが、任天堂もそれを堂々と受けている懐の深さを感じます。

Wiiが発売直前、平林さんはこうおっしゃってました。
Wiiスポーツが売れすぎたら、Wiiは短命になるかも。
ひとりプレイ中心のゼルダの伝説が売れないと危険であると。

まさにその予言が的中したようでもあります。
いいたい事が多すぎて乱文で失礼しました。
  • 2009/07/31 18:33
  • 愛読者です
  • URL
愛読者さま、コメント、ありがとうございます
多くのことをお書きくださったので整理してRESいたします。
●まずは、日頃のご愛読に感謝申し上げます。
●また、本エントリー冒頭部につきまして「泣きそうになりました」とのこと、そこまで感情移入してお読みくださいましたこと、筆者としてうれしく思います。
●他の報道やブログが“ばかり”で、それ以外が私“だけ”とは言いきれません。また、「敬意」や「愛」などという美しい考えが私の心を支配しているわけではありません。「建設的」も本当に「建設的」かどうかはわかりません。しかしながら、ただ、センセーショナルに任天堂の減収減益を煽るようなことはしない、したくないと、心の中で決めておりました。
●「別の視点」については、主力タイトルが売れた売れないと言ったことは誰でも語ることができるので、Wiiが連想させる家庭像の見直しについての考察をしてみたわけです。
●匿名氏(と呼ばせていただきます)についてですが、私は原則的に匿名コメントは掲載しないことにしています。しかし、今日のエントリーは反論・異論が出ることを覚悟していましたので、迷いましたが掲載させていただくことにしました。
●私が丁寧な敬語を使った理由は3つあります。第1に相手が誰であれ、読者の方は賓客であり敬語を使う対象と思うからであります。常連さん、後輩、友人ではない限り。第2に匿名氏は、「ですな」「ですか?」「です」と丁寧語を使っていらっしゃいます。である以上、私が敬語を使わずして応答することはできません。第3に、ここが私の意地悪なところですが、あえて丁重な敬語を使うことによって、双方のコミュニケーションが論争的になるのではなく、アサーティブなコミュニケーションになることを期待していたのは正直な心境であります。
●いつもお金を払っていただきありがとうございます(笑)。確かに私は講演やセミナー講師等の仕事をしますが、もちろん全部有料なわけではありません。ただ、それだけのご評価をいただいていることにつきましては、ただただ厚く御礼を申し上げます。
●あと、これは私の考え違いかもしれませんが、無料で読めるブログは、その論旨構成、語彙選択、主張等において筆者の裁量権は大きく、あまり重箱の隅を突かないで、という思いがあります。ウソや意味不明のことを書いてもいいという意味ではなく、ほら、このように「という」が連続するとか、「それ」「そういう」といった指示語が多いとか、このような点は自分でもチェックが甘いことを自覚しております。しかし、有料で読んでいただき、私が原稿料を頂戴する原稿では勢いや雰囲気に任せず、正しい文法による原稿を書くよう微力ながら心がけております。
●「任天堂の売上に占める国内の割合は2割程度」はもちろん知っていました。自慢じゃありませんが任天堂の売上国内外比は過去20年分くらい、そらんじて言えます。
●「平林久和しかいません」は過ぎたるご評価です。任天堂の広報の方たちは、私が現役記者だったころから、しっかりなさっていて、ちょっと話は大きくなりますが“言論の自由”を常に尊重してくださいます。また、つい最近もあった出来事ですが、調査を依頼申し上げたり、画像素材の提供のお願いをしても迅速かつ性格に対応してくださいます。意外に思われかもしれませんが、任天堂の広報の方と私とは20数年間、何のトラブルもない関係をつくらせていただいております。したがって、私が特に勇気のある言論を振りかざし、任天堂が格別に度量が深いのではなく、「当たり前のこと当たり前にやっている」というのが正確なところではないでしょうか。ただし、業界内他社と比べてしまうと、任天堂の懐の深さ、レベルの高さが引き立って見えることがあります。他社が「当たり前のこと当たり前にできていない」からです。
●>Wiiスポーツが売れすぎたら、Wiiは短命になるかも。ひとりプレイ中心のゼルダの伝説が売れないと危険であると。確かにこの発言をしました。覚えていただいてありがとうございます。本エントリーでも書きましたように、体感ゲームのブームは急にさめるという持論を曲げるつもりはございません。これは過去にエポック社の製品、プレイステーション2対応のEYE TOYが同様の傾向を示しています。また、過去の事例のみならず心理学的にもその理由を証明できます。
●ですので、人目をひきキャッチーな体感式のゲームと、ひとりで遊んで奥深いゲームが、バランス良く売れるかどうかは、Wiiが発売される以前から注目しておりました。
●誉められすぎたことの照れ隠しと、真意をお伝えしたく長いRESになってしまい失礼いたしました。
●重ねてではありますが、日頃のご愛読と陰ながらご支援をいただいておりますこと、改めて感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
いつも楽しく読ませていただいてます。
ちょっと気になったので一言よろしいですか?

我が家は妻1娘1息子1の4人家族。
まさにWiiが似合う家族構成です(笑)
でも、新ソフトはほとんど買っていないんです。
いまだにWii Sportsですね。
直近ではWii Resortが一寸気になる程度で、
売れていないのは魅力的なコンテンツがないからだと
(素人の浅慮かもしれませんが)思っています。
きっと「ぼく夏」が出ていたら、家族で楽しんでいたかもしれませんね。
長男に操作はまかせて、他はみんなで周りを囲み、
同じ時間を共有しているという楽しみ方。
なのに「ぼく夏」の新作はPSPでした。
そうなってしまうと、購買意欲は一気に醒めてしまいます。
ドラクエも、モンハンも然りですが、Wiiは
独りで打ち込むゲームのプラットフォームではないんですよね。
平林さんの仰るとおり、幸せな家族の象徴なんです。
またunknowさんがご指摘のように3人だろうと4人だろうと、
はたまた5人だろうと関係はないかなと。。。
4人同時プレイじゃなくても2人づつ順番に交替で楽しめますし、
前述したように子ども(1人)が中心となってプレーし、
ギャラリーがそれを見守るというスタイルも採れます。

まぁ何が言いたいかというと、
体感ゲーム云々が衰退につながっている、
世帯人員ひとりを取り逃がしている、という理由づけは
ある部分正論ではありますが、
肝心なのは、Wiiが自ら創りあげた「家族団欒のためのハード」
という特長的ポジショニングを
疎かにしているとまでは言いませんが、
生かしていない部分があるのではないか?
ということです。

家族団欒をイメージできるソフトがもっとあれば、
ソフトそのものの販売はもちろん、
これまで購入に二の足を踏んでいたユーザーへの
普及率もまだまだ伸びるのではないかと思う次第です。
乱暴かもしれませんが、Wiiのブランディングは、
これ以降も「家族」のほうを向き、
図7のグラフの一番左をいっそバッサリ切り捨てる覚悟を・・・。


いやいや、このへんでやめときます。
上でどなたかも仰っていましたが釈迦に説法ですね、
そして長文もまた失礼いたしました。
これからも頑張ってください。

  • 2009/08/01 01:15
  • 通りすがり
  • URL
通りすがりさん、コメント、ありがとうございます
ご愛読、ありがとうございます。
また、お返事が遅くなり大変失礼いたしました。

>我が家は

以下、お書きくださった、いまだにWii Sports、きっとぼく夏のプレイヤーの心情、理解いたしました。

そして

>図7のグラフの一番左をいっそバッサリ切り捨てる覚悟を

これもまた、けだし正論だと思うのです。
私はWii=体感ゲームのイメージを払拭するときが来たと言いたいですね。くどいですが。

2009年7月のWiiソフトの売上。
1位 Wii Sports Resort
2位 Wii Fit
3位 マリオカートWii

これら体感系ソフトは、良質な超ロングセラーではあるのですが、逆に他の良質なソフトを埋もれさせてしまっている側面がある、ともいえます。
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