Hisakazu Hirabayashi * Official Blog政治なのに文学的になった夜だった

政治なのに文学的になった夜だった

 政権交代!
 鳩山内閣誕生!
 自民党、大物議員、続々落選!

 漢字だ。
 我が家のテレビに流れるテロップは、どれも漢字だった。

 起きたことは戦後政治史において、画期的なのはわかる。
 でも、どの番組を観ても「感じ」が伝わってこなかった。
 漢字で書き、漢字を話をしている気がした。

 いつも、漢字好きな、つまり概念の中で生きるのが好きな私だが、こうみんなに漢字を使われると、かえって冷める。

 民主党の獲得議席も、激戦区の動向もどうでもよくなって、テレビ画面を眺めがら、まったく別のことを考えはじめた。

 「国民が主役の」と言っている人の、軽井沢の別荘の前を通ったことがある。
 あの広大な別荘を国民は持っていない。

 「子ども手当て、2万6千円のマニフェストは守るんですね」とその人に話をしているキャスターのギャラは、一晩で数百万だ。

 入閣が噂される民間人を、テレビ局の人たちは知っていて、あえてコメンテーターにしていない。

 バンザイにダルマも世間ズレしていると思うが、のぼりを持って自転車に乗るのもどうかと思う。
 こうした候補者を見て、『ドラゴンクエスト9』のサンディだったら、何て言うだろうか。
 参政権のない、ガングロの妖精の意見を聞いてみたい。

 心、ここにあらずの状態で、画面を眺めていると、そんなシニカルなことばかりを考えてしまう。

 現実に何か大きなことが起きているらしい。
 でも、ウソっぽい。

 私は、現実の中の虚構を私は見ている。
 ……ような、感じがする。
 いや、虚構という現実を見ているのだろうか。

 夢か現(うつつ)か、現か夢か。
 「荘周が夢を見て蝶になり、蝶として大いに楽しんだ所、夢が覚める。果たして荘周が夢を見て蝶になったのか、あるいは蝶が夢を見て荘周になっているのか」。
 
 気分は『胡蝶の夢』だ。

 この空恐ろしいフィクションのようなノンフィクションを、バレないようにしているのはネクタイかもしれない。私は急に、政治家とキャスターとコメンテーターの服装が、気になりはじめる。

 だが、あまり意味はなかった。
 一緒だ。
 そこにもまた、虚と実が混ざっている。
 スタイリストがついている人物と、そうでない人物の見分けがついてしまう。

 幅広のレジメンタルストライプのネクタイをしている派と、それ以外の人という見方もできる。レジメンタルといえば、イギリスの連隊を示す柄。トラディショナル・ファッションのシンボルだ。

 「風が吹いた」。
 「逆風の中での苦戦した」。

 比喩は「風」がほとんどだった。
 風の話は聞き飽きた。

 「私の不徳の致すところ」。
 「敗軍の将、兵を語らず」。

 敗者の言葉も陳腐だ。
 私が落選候補者の参謀なら、名コピーを思いついてから選挙事務所入りすることをすすめるのに。

 テレビに映る誰の言葉も冴えていない。

 石原慎太郎だけは違った。
 「自民党は軽蔑されたから負けた」ときっぱり言い切った。

 蔑は漢字だが、「感じ」が伝わった。
 「首相が漢字を読めないとか、任期中の県知事に出馬を頼みに行くとか、国民から軽蔑されるようなことをするから負けるんだ。反対意見や怒りの感情を鎮めることができても、軽蔑された者は信用を取りもどすことができない」。

 蔑という字は下品すぎて、危険すぎて、他のテレビの登場人物たちが、無意識のうちに避けている文字だったが、それを使ってしまうところが、良くも悪くも石原慎太郎だ。

 それにひきかえ、ただただ、失礼な記者がいた。
 麻生太郎という、この日、最も惨めな思いをしている人に、こんなことを言った。

 「いわゆる“麻生おろし”があったときに辞めていればよかったとは思いませんか?」。
 そんなことを尋ねて、なんの意味があるのだろう。

 今、政治の話をしているが、明日、大地震があったら、どうするんだろう? みんな。
 その、みんなは誰を指すのかがわからない。
 わからないが、なんとなくみんなのことを考えている。

 地震、台風、インフルエンザ。
 比例東京ブロックの票数よりも、天変地異が気にかかる。

 心、ここにあらずの状態で、思いつくままに思考してはやめる行為にも飽きて、就寝。
 眠りについたのは、たぶん午前2時。

 睡眠不足の朝。
 街は驚くほど静か。

 電車に乗っている人は誰も口をきかない。
 昨夜の選挙の話すらしていない。
 そして、新聞を読んでいる人が少ないような気もした。

 政権交代なんて、まるで他人事で、遠い日の思い出のようだ。
 この景色が幸福なのか、不幸なのかもわからない。

 明らかに変わったのは気温だ。
 虫の声だ。
 9月1日。
 季節は夏から秋へと変わった。
 なう。

Comment

文学といえば・・
三島由紀夫の「宴のあと」を思い出してしまうのは、私だけだろうか・・文化祭の最後の夜の感じがしてしまう。
  • 2009/09/01 00:18
  • 不良中年
  • URL
不良中年さん、コメント、ありがとうございます
「宴のあと」。
裁判にもなったという、都知事選を題材にした小説ですね。
恋愛、肉体、政治がからまった三島由紀夫らしい小説。
そういえば、鳩山由紀夫と三島由紀夫は同じですね。
由起夫が。

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