ゲーム業界版・不都合な真実(完結編)
- Day:2010.02.25 23:27
- Cat:ゲーム
ゲーム業界で働く人たちが抱く不安感。
ときに、私はその光景がガレー船と重なるときがあります。

ゲーム開発にたずさわる人員は増え、開発期間は長期化しました。
そこで働く人々は、今、自分がどの場所にいて、目標地点はどこで、何のために仕事をするのか、見失いがちになる。その心境を察すると、ガレー船の乗組員を思い起こしてしまいます。
人員は増え、開発期間は長期化?
こんなことは、最近になって起きたことではありません。
ファミコンがスーパーファミコンに。スーパーファミコンがプレイステーションに。
ハード性能が上がり、ソフト容量が増えるたびに、繰り返していわれてきた業界の問題点です。
しかし「成長は七難を隠す」です。
業界全体、企業の売上、個人の給与が成長しているときは、どんな問題も隠されてしまう。
夕べも遅くまで続いたTwitter上での議論で「昔は残業代も青天井で“自分の血を売ってる”と割り切って働いてました」とのご意見がありました。
血を売る……を穏やかに意訳するならば、たとえ徹夜が続いても、ゲームが1本完成すれば、開発者には有形・無形の報償があった、ということでしょう。
90年代のことでした。私はソフトが完成した現場を取材。その時間が午前だったせいか、パジャマを着たままのディレクターをインタビューしたことがあります。徹夜明けの姿なのですが、悲惨さなどまったくありません。それどころか、気分が高揚しているディレクター氏から満面の笑顔で、いきなり握手された記憶があります。
ところが、一昨日のエントリーで示したグラフのように、成長が止まると……止まるどころか市場が縮小すると、問題は一気にあらわになります。
学園祭前夜のような気分でやっていたワクワクするような徹夜は、単なる過重労働になります。
喧嘩しながらであっても、完成すれば仲直りしていた人間関係も、市場の低迷期では修復しにくくなります。ソフトが売れなければ罪のなすりつけあいが起こりやすくなり、ストレスは増えるばかりです。
そういう時代の局面になっても、ハード性能が上がる。ソフト容量が増える。
ゲーム開発にたずさわる人員は増える。
開発期間は長期化する。
となれば、開発効率を良くするために必然的に行われるのは分業化で、ゲームクリエイターや、グラフィック・デザイナーになりたかった者たちは、ゲーム・パーツ・クリエイターや、グラフィック・パーツ・デザイナーにならざるをえないのです。
とは、これまた夕べのTwitterで聞かれたご意見。上司の指示を拡大解釈して信じた道を突き進む&やらかして教訓を得るという、若造を最も成長させる働き方の幅が、分業化が進んだせいで昔よりも狭くなったような。彼らは昔の自分より明らかに真面目に頑張ってますが、仕事の質ではなく量に忙殺され消耗してる印象です。
肥大化したプロジェクトを、分業によってくぐり抜けている実態を、端的に示していただいたように思えました。
ですから、私が現場に入ったときには、プロジェクトの構成員をガレー船の乗組員にしないようにしてきました。
船はどこにいて、これからどこに向かうのか。本当はグラフィック・デザイナーになりたかったのに、ひたすら木と草と森を描いてもらっているグラフィック・パーツ・デザイナーには、私は加害者であなたは被害者であるという意識を持って、マストの上から見える光景を説明してきたつもりです。
プロジェクトマネジメントの専門用語でいうならば、アカウンタビリティ。個人や組織が影響を与えたと思しき意思決定について、合理的に説明を行う責任を果たそうとしました。これをしないと、ゲームソフト開発は、周囲が見えづらい、不安な重労働だと思ったからです。にもかかわらず、私の力不足で去って行く者はいるし、ストレスをため込んでいく者がいる。そんな苦い経験を積んできた、この10年間でした。
さて、やっと話はこのシリーズ最初に戻るわけですが、私がつき合ってきたゲーム業界の闇の部分に対して、なにか光を照らすことはできないか。考えました。
と同時に見渡せば、同じような問題は、昨日触れたIT業界をはじめ、どの業界でも起きている。いや、業界を越えた社会問題でもある。今日もこんな記事が出ています。そんな経緯から「ゲームの本ではありませんが、ゲーム業界の人に読んでほしい本です」を書いたのであります。
「ゲーム業界版・不都合な真実」。
この連続シリーズだけをお読みになると、いつも私はタフで冷静だったように思われるかもしれませんね。かっこいいことばかり言っている。
そんなことは……ないと思います。知っている人は知っているように、私は2007年に一期だけジャスダック上場企業の社長をつとめましたが、企業再建に失敗しました。その会社は結局清算されたという、涙が止まらない経験をしました。同書でも告白していますが、当時、私は食欲がなくなってしまい、60kgあった体重が51kgまで下がっています。辛かったです。
この苦い経験を通じ、伝えたいことが積もりに積もりました。
この苦い経験を通じ、日々の仕事で徒労感に包まれている人に、エールを送る本を書きたいと思うようになりました。私よりも若い人に向けて、偉い先生ではなく、先を生きた人として、どういうところで人は躓(つまずき)やすいかを書こうと思いました。
では、成長が止まり、閉塞感に満ちたゲーム業界で働く人は、どうすればいいのか?
それを書き出すと終わらなくなってしまうので、ひと言だけ。
頭のいい人よりも、頭の柔らかい人が求められる時代がやってくるでしょう。
議論はまだつづきそうですが「ゲーム業界版・不都合な真実」はこれをもって完結といたします。