Hisakazu Hirabayashi * Official Blog浅い電子化と深い電子化

浅い電子化と深い電子化

まだ、IT業界という言葉がなかった頃の話です。
情報処理の会社の社長から、「まいったなぁ」という愚痴を聞きました。

将棋。
将棋好きのクライアントに呼ばれ、プロ棋士たちが指した手の記録=棋譜を電子化したいという相談があったそうです。しかも、その電子化はかなり進んでいるという話になっており……。

しかし、打ち合わせに行ってみると、新聞に掲載された紙面を、ただスキャニングしただけの(ビットマップ)データがあるだけで、確かに電子化はされてはいたものの、それは紙の転写でしかありません。たとえば下写真のような。この作業をせっせと進めても、事業化できるはずもなく、その仕事(?)をお断りしたあとに、私は愚痴られたのであります。

kifu.jpg

こんな笑い話ではなく、将棋の総本山・日本将棋連盟ではプロ棋士が公式戦で指したすべての棋譜がデータベース化されています。これは本当の意味での電子化です。

そして、将棋の世界は電子化されたことにより激変が起こりました。
まず、力関係が変わったのです。
コンピュータを操作でき、データベースを有効活用する棋士の勝率が上がりました。
将棋では、前半戦から中盤戦にかけて、同じ局面になることあります。その際に、Aという手を指した時の勝率、Bという手を指した時の勝率。このような数値が引き出せるのです。

かたや、コンピュータを使うのが苦手な、あるいは過去の記録をコンピュータに頼るのは邪道だと主張する、高齢者の棋士の勝率は相対的に下がりました。

コンピュータが無かった時代。
将棋は全人格的な力量で勝負する、という思想がありました。
修行につぐ修行。
修羅場をくぐった経験の数。
相手棋士を威圧する覇気。

木村義雄、大山康晴、升田幸三といった歴代の名人は、60歳を過ぎても一線で活躍していました。
ところが、棋譜のデータベース化=将棋の電子化によって世代交代のサイクルが早まったのです。
若手棋士が昇段するペースは上がり、高齢の棋士の序列は下がっていく傾向に。

さらに、棋士の世界は相撲の世界に似ていて、師匠と弟子の上下関係は厳しいものです。昔は内弟子制度といって、師匠の家に住み込んで修行するのが当たり前のことでした。ですが、電子化された将棋の世界では、若手棋士同士の研究会が次々と発足され、上下関係よりも、横のつながりが重んじられるようになります。

なぜ、将棋の話などをしているかというと、最近、議論が盛んな書籍や新聞の電子化について述べてみたかったからです。

まず、私は「電子化に賛成」「電子化は失敗しそう」といった、電子化という行為をまさに0か1で論じるのは、まったくナンセンス! 電子化には冒頭に述べたようなただ転写しただけのような電子化と、たかが将棋の世界かもしれませんが、小社会の構造や慣習をも変えてしまうような電子化があると考えます。電子化には深さのようなものがある、と思うのですね。

直近のテーマを取り上げましょう。
日本経済新聞の電子版が3月23日に創刊されます。

もし、読み慣れた「新聞」を、「そのまま」パソコンで表示しますだけだったら、棋譜をスキャンしたのと違いはないですね。もちろん、それだけでは価値がないので、1週間分のバックナンバーを収録していますや、登録キーワードから必要な記事を自動収集。大切なニュースをあなたの代わりにクリッピングのサービスがついているわけですが、もっと深さがほしい。

この1週間、私は日本経済新聞・朝刊(14版)を毎日チェックしていたのですが、だいたい1日あたり、グラフが20個から30個使われているのですね。企業売上であったり、産業統計であったり、外国の金利の変化であったり。

たとえば、です。
電子版で読むと、そのグラフがエクセルデータになってダウンロードできる。そのデータには紙面に載っていない過去年度のデータも付随している。……なんてことができるならば、深い電子化が行われていることになります。そうなれば電子版の価値は飛躍的に増大します。

出版と新聞の電子化の議論。
私の頭の中にあるメタファーは、子ども時代から愛してやまない将棋界で起きた出来事、です。
電子化には浅い電子化と深い電子化があると思うのです。
こんなニュースも……

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