Hisakazu Hirabayashi * Official Blogプレイステーションの流通システムは良かった

プレイステーションの流通システムは良かった

まず、お断りさせていただきますが、このブログはフィギュアスケートをテーマにしたものではありません。
私はフィギュアスケートの専門家ではありません。

と、申しますのも昨日のことでした。
ブログのアクセス数が異様に増えていました。
内心、「良いことを書いたからかなぁ」などと、うぬぼれておりました。
ですが、調べてみると「フィギュアスケート」を検索語にして当サイトを閲覧した方が、なんと全体の40%を占めていたのです。ビックリです。

昨日のエントリーの本題ではなく、たとえ話のほうが検索にひっかかったわけで、フィギュアスケートのファンの方には、何のお役にも立たなかったと思います。

よって、お断り申しあげます。
「フィギュアスケート」からやってきた方は以下は読まないでください。
まったく関係ないことが書かれています。

さて、本題です。

GameBusiness.jpにて掲載されています。
「悲観論よ、さようなら」・平林久和「ゲームの未来を語る」第1回。の解説の続きです。

私は同原稿の29のパラグラフのうち、最も説明不足で、それこそフィギュアスケートにたとえるなら、大減点をされるであろう箇所は……

プレイステーションの成功を支えた流通システム。「新品」を「定価」で販売し、生産数量は問屋ではなく「ユーザーが決める」。このビジネスモデルは画期的で業界に新風を巻き込むものでした。しかし、公正取引委員会の誤った判断により、事実上崩壊を迎えようとしていました。すると何が起きるか? 中古市場が急速に膨らみ、新作ソフトが売れないマーケットに変わることは容易に想像できました。


と、白状をいたしました。

では、説明、もちろん私の主観の説明でありますが、詳しく述べると以下のようになります。

下記の文章は、私がかつて連載していた『日経ゼロワン』(現在は休刊)に寄稿。1998年4月号に掲載されたものです。改行や表記等、若干修正をいたしましたが、大意は掲載時と変わっておりません。

特に見出しが挑戦的であったため、すったもんだもあったのですが、担当編集のK氏が必死になってこの文章を守ってくださった思い出があります。長くなりますがご紹介します。



公取委、SCEへの排除勧告にもの申す

経済学の基礎の基礎を思い出してみよう。
モノの価格とはいったいどうやって決まるのだろうか? 価格(Price)は需要(Demand)と供給(Supply)の均衡によって決まる。需要が多くて供給が少ないと価格は上がり、逆ならば下がっていく。これが資本主義の自然のなりゆきであり掟でもある。ケインズをはじめとする近代経済学者は、この価格決定にいたるまでのシステムを「神の見えざる手」と風雅な言葉で表現した。

ところでゲーム業界の場合、過去何年もの間、この摂理を無視してきたという現実がある。

話はファミコンやスーパーファミコンが全盛期だった頃にさかのぼる。当時のゲームソフトは、ずいぶんといい加減に供給量が決まり、需要が予測されていた。したがって、ユーザーが手にするソフトの価格は乱高下するのが常だった。

まず供給量だが、おそるべきことにこれは市場の意向とはまったく違う次元で決定していた。誰が決めるのか。それはたいていゲーム問屋が決めていた。

あるゲーム会社が新作ソフトを開発したとしよう。このソフトは任天堂の工場で量産されるのだが、その際の委託製造本数はほとんどの場合、(ゲーム会社が受注した)問屋の発注本数と同じになるように設定されていた。

ゲーム会社はソフトを量産するうえで、なるべくリスクを遠ざけたい。そのためには確実にさばける本数を製造する――という慣習が自然と定着したのだった。

つまりゲームソフトの供給量、イコール問屋の発注本数なのである。
しかもこれが決まるのは、実際にソフトが発売される2~3ヶ月前だったりする。さらにそこで用いられる価値基準は「将来売れそうか?」ではなく、「過去に売れた実績があるか?」だった。

有名なタイトル、有力メーカーの作品ならば発注数はふくらむ傾向があり、たとえ良いゲームであっても無名なゲームは発注数を絞られる傾向があった。ゲームソフトの供給量は、こうして発売日のはるか前に、ゲームの良し悪しとは別の次元で決められていた。そこにユーザーの意志は反映されていない。

だが、こんなケインズ先生を無視した経済学が通用するのも、ソフトが発売されるまでの話である。業界の勝手な都合で決められた供給量は、需要に見合わないことが多く、実際に発売されてみると、ほとんどのゲームソフトが法外にディスカウントされる憂き目にあった。

本来ならば1万円以上するソフトが1千円以下で、ワゴンに並べられて売られることもあった。やはりケインズ先生の言っていることは正しく「供給過剰は価格の下降を招く」のである。

ソフトの発売日までは経済の原則を無視した構造で動き、いったんソフトが市場に出ると経済の原則の荒波にさらされる。

こんなことを繰り返して誰が幸せなのだろう?

問屋は在庫に不良在庫に苦しみ、小売店は利益をとれない。仮に無名ながらも良いソフトがあったとしても、もとから供給量が少ないので、ユーザーは手に入れにくい。ファミリーコンピュータが登場して以来、ゲームソフトは間違いだらけの流通という名の川を流れて、僕らの手元に届いていたのだった。

この問題点をなんとか解決の方向に向かわせたのは、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)だ。彼らは、一台でも多くプレイステーションを売るために、流通システムを再構築しようとした。SCEの流通システムは創造的だった。

プレイステーション発売に際して、SCEは任天堂とは違うしくみを考えている。SCEは経済原理に則した市場をつくろうとした。ソフトの供給量はユーザーが決めるのが当然だと彼らは考えた。問屋が供給量を決めるべきではない。そういう思想をSCEは持っていた。

店頭にソフトが並ぶ。それを良いソフトだと判断すればユーザーは購入し、万が一品切れしていれば追加注文する。それがプレイステーションソフトの理想的な販売方法だとSCEは考えた。あるかどうかもわからない需要を当て込んで初回生産数で、ドンと商売するのが従来型なら、少しずつでも実需に応じてじわじわと売っていこうとしたのが、プレイステーション型。

これを実現するためにSCEは既得権を持った問屋の猛反発を予想しながらも、制度を変えてしまった。問屋を介さずに、販売店に直販することにより流通マージンを圧縮。最多価格帯が9800円程度だったスーパーファミコンソフトを、プレイステーションでは5800円程度にしたのである。(もちろん、この価格圧縮はロムカートリッジとCD-ROMというメディアコストの違いも寄与している)

ゲームソフトの流通革命だ。

しかし、SCEの掲げた理想を実現するには、越えなくてはいけないハードルがあった。たとえばスーパーファミコン時代では慣例化していた中古ソフトやディスカウント販売。これが継続してはSCEの戦略は、絵に描いた餅になる。市場でユーザーに認められ、リピート注文を繰り返して売り上げ枚数を稼いでいくのがSCEの理想としたモデル。

だが、そうもくろんでいるそばで中古ソフトが売られては、新作ソフトが売れ行きに影響が出てくる。また、在庫過剰が起こり、ディスカウント品が店頭に並んでしまうと、ユーザーは皆、安い商品に流れて誰も追加注文などしなくなってしまう。プレイステーションの流通システムを歓迎した販売店の利益も出なくなる。

ようするにSCEが目標とした「ユーザーが供給量を決める市場」は、ノー・ディスカウント、ノー・セカンドハンド。「値引きと中古品なき販売」を前提にしていたのである。

そのSCEが98年1月20日、公正取引委員会から排除勧告を受けた。メーカーによる小売価格の拘束は独占禁止法違反に該当する、というのである。法を厳格に運用するならば、そうかもしれない。だがSCEがやったことは、ゲームソフト流通を改善したシステムであったと僕は信じている。

その「功」の部分を欠落させて「罪」の部分を強調する団体、公正取引委員会とはいったい何者なのだろう。「公正取引」の言葉だけをとらえたならば、過去よりもゲームソフト流通ははるかに公正になった。SCEは排除勧告どころか表彰されてもいいくらいだ。あえて暴論を言えば、そういう意見を持っている。



この文章をもって、あの短いパラグラフの説明とさせていただきます。
そして、私はこのプレイステーション型のビジネスモデルが崩壊しつつあるので、批判文を書き、同時にゲームソフトの売上の低下を予想せざるをえなかったのです。

不思議なことに、あまり語られることは多くなかったのですが、この公取委の判断は、のちのゲーム業界に大いなる影響を与えた分水嶺であったと私は考えます。フィギュアスケートではなく、ゲームビジネスの専門家として!

ご参考までに、比較図をつくってみました。

distribute.jpg

Comment

No title
従来のソフトモデルとPS2モデルの違いは、
出版業の流通モデルとネット販売(電子書籍を含む)との違いに、かなり似ていますね。
発行部数はこちらも需要と供給の分析によってではなく、
問屋さんの思いつきに左右されてしまうところが。
公取もやはり経営の専門家ではないので、本人達の善意が裏目に出てしまったケースですね。
  • 2010/09/10 11:03
  • はたっち
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