Hisakazu Hirabayashi * Official Blogディスクシステム興亡史(2)

ディスクシステム興亡史(2)

本日から東京ゲームショウ開幕です。
気をつけて行ってらっしゃいませ。

私も幕張におりますので、見かけたら、お気軽に声をかけてください。
では、昨日のエントリーのつづきです。



■1985年9月~12月……[不協和音]

ゲーム業界の内部では、任天堂の急進的な政策を「危険すぎるのではないか?」との声もあった。ディスクシステムには、良いところもあるが、悪いところもある。当時の口さがない人々は、次のようなことをささやきあっていた。

◇第一の欠点〔タイムラグ〕
まず、批判されたのが、データの読み込み・書き込み時間の問題だった。ディスクシステムを使ってゲームをすると、フロッピーディスクでパソコンを操作している時のような、データ読み書きの「間」が生じてしまう。画面に「しばらくお待ちください」などと表示されて、プレイヤーはデータを読み書きする時間を待たなくてはいけない。この「間」をアンチ・ディスクシステム派は批判の的にした。

読み書きに時間がかかるのは、ディスクシステムに限らず、磁気ディスクを使ったすべてのコンピュータの宿命だ。しかし、今までのロムカートリッジは、一切の「待ち時間」無しのメディアだった。それなのに「間」があったのでは、「まるでファミコンが退化しているかのようだ」と、ディスクシステムは攻撃された。

◇第二の欠点〔操作の手間・コンピュータを意識させる〕
さらにディスクシステムは「クイックディスク」と呼ばれる特殊な形式のディスクを使っている。これは、普通のフロッピーディスクとは違って、カセットテープのA面とB面のように両面を分けて使うタイプのものだった。だからディスクシステムでは、パソコンの操作でもありえない、ディスクをひっくり返すという作業がともなう場合もある。

アンチ・ディスク派は、「ファミコンはユーザーにコンピュータを意識させずに遊べたのがヒットした要因だ。なのに、余分なアクセスタイムがあって、なおかつディスクを裏返しにするような、手間がかかる機器などは普及しないだろう」とまくしたてた。

◇第三の欠点〔違法コピー〕
メディアがロムカートリッジから磁気ディスクに変わるということは、ソフトを違法コピーされる可能性が高くなる、との指摘もあった。磁気ディスクはロムカートリッジに比べて、コピーに対しての防衛力が弱い。複製品をつくることはいとも簡単なのではないかと危惧された。実際、この予言は的中し、ディスクシステム発売後に違法ソフトが出回ることになる。

◇第四の欠点〔製品管理〕
「磁気ディスクは取り扱いがデリケートなメディアので、子どもたちが故障させる率が高い」とも言われた。ロムカートリッジなら、べとべとにチョコレートがついた子どもの手でもソフトを持ち歩ける。しかし、水・ホコリ・周囲の磁気には弱いディスクカードは、子どもたちが使うと思わぬトラブルが起きかねない。ロムカートリッジではめったに起きない故障にメーカーはどう対応するのか。メディアの信頼性についてもディスクシステムは危惧された。

◇第五の欠点〔ディスクシステムの価格〕
ディスクシステムの予定発売価格は15000円である。そのため、「14800円のファミコン本体に、15000円の周辺機器は高価すぎる」とも批判された。任天堂はこういう考えを「それはハード屋さんの発想」と退けようとしたのだが、あながち的はずれとは言い切れない。もし、ディスクシステムが標準機器になれば、ファミコンユーザーは皆、3万円近くの買い物をしなくてはいけない。そうなってはファミコンの「安い」という利点が損なわれていくことになる。

◇第六の欠点〔ブランクディスクの問題〕
「ブランクディスクを売らないで飽きたソフトを書き換える方式に、ユーザーは魅力を感じない」という意見もあった。ブランクディスクとは空っぽの何もデータの入っていないディスクのことだ。任天堂は、書き換えをするユーザーのために、特にブランクディスクを販売しないつもりでいた。書き換えは、「ユーザーが一度買ったディスクを再利用した場合のみ認める」。これが任天堂の方針である。だが、それでは便利なはずの書き換え制度も不十分ではないか、と訴える。「買ったゲームのデータを“消す”ということは、ゲームを“捨てる”ことにほかならないのだから……」。

▽  ▽  ▽

任天堂がディスクシステムを発売することは、すでに決定済みのことなのだが、以上のような反論が業界内ではくすぶっていた。上記の意見は、いわば、当時の“反対派市民の感情”といってもいいだろう。だが、任天堂はこれら意見に一切耳を貸さなかった。

しかし、市民の感情ではなく、それが一致団結した組織・権力の意志となると、さすがの任天堂も譲歩せざるをえなかったようだ。

■1985年11月……[反旗と妥協]

現代国家なら、「司法」「立法」「行政」。
王政ローマなら「王」「元老院」「市民集会」。
国家を安定させるためには、三つの権力が分立しているのが望ましいとされている。よく歴史家は、「三本の脚がないと、テーブルは立たない」と比喩して、三権の重要性を説く。

ところで、ファミコン帝国における三権とは、「任天堂」「流通」「サードパーティ」である。ディスクシステムの聖戦の場合、提唱者の任天堂はもちろん主戦論を主張している。任天堂は積極的にディスクシステムで撃って出ようとした。しかし、ファミコン帝国の他の二権は、全面賛成はしていない。とりわけ流通(問屋や販売店)は、ディスクシステムの構想に猛反発。出征を前にして、内紛が起きたのだった。

◇流通飛ばし
ファミコン関連商品を一手に引き受ける玩具流通は、任天堂が考えた電話回線を使った書き換え制度導入を拒んだ。

そもそも電話回線による書き換えは、民営化以降NTTがはじめた課金徴収サービスによって成り立っている。このサービスと、ディスクシステムが結びついて、握手をしようとしていた。

しかし、この握手は流通業者にとっては死活問題だった。ソフトの価格が2000円台に下がり、利幅が減るだけでも痛手なのに、書き換え料金に自分たちのマージンがないのは納得できない。

彼らは抵抗した。おりしもファミコンブームがピークを迎えた八五年は、ゲームソフトを中心にあつかう大手流通業者は、対前年費の約二倍の売上・経常利益をあげていたと思われる。

そんな業績絶好調の矢先、問屋にとっては「今のまま儲かり続ける」ことが最大の願望であって、「ようわからん変化」はさらさら望むつもりはなかった。彼らはディスクシステムという周辺機器の発売には強硬な異論はないものの、「書き換え制度」には真っ向から反対した。

◇ディスクライターで妥協
結局、反発された任天堂は妥協せざるをえなくなった。書き換え制度は予定通りに実施するが、電話回線案については白紙撤回。かわって、全国約3000店舗(玩具店・百貨店玩具売場)にディスク書き換え機「ディスクライター」を設置するプランが浮上した。

「ディスクライター」の書き換えは、(1)ユーザーは玩具店や百貨店の玩具売り場にソフトを持って行く。(2)そこで500円を支払えば、(3)設置店の店員がディスクソフトを書き換えてくれる――こんな手順で行われる。

また「ディスクライター」は、ソフトを書き換えるだけではなく、店舗からホストにデータを転送することも可能にして双方向性を持たせた。(のちにこの機能を使って「ファミコンディスクトーナメント」が開催される。)

妥協しながらも任天堂は、ディスクシステムの表向きのメリットは何とか保った格好だ。しかし、この妥協の瞬間にディスクシステムの先進的なコンセプトは、大きくそぎ落とされてしまったのは否めない。



■1986年2月……[出征の時]

◇ディスクシステムついに発売
明けて1986年。85年年末商戦は終わった。ソフト数の点では活気があったけれど、1タイトルあたりの売上は前年よりも下回っていた。ソフト市場の激戦は、すでにはじまっていたようだった。もう、「ファミコンソフトなら出せば100万本」とまで言われた、あの頃には戻れないことを、自覚しないわけにはいかなかった。

戻れない。となれば進むしかない。目の前にあったのは、ディスクシステムだった。一時は懐疑的な気分が漂っていたディスクシステムだが、年が明けると一転、ディスクシステムの登場を待ち望むような声も聞こえるようになる。ハードでもいい、ソフトでもいい。売れるものがあって、景気のいい話をしていたい。そんな業界体質は、この頃からあった。

86年2月21日、ついにディスクシステムが登場した。初出荷の台数が少なかったこともあって、ほとんどの店頭でディスクシステムは即日完売した。電話回線案にかわって浮上した、業務用のディスク書き換え装置も完成し、「ディスクライター」は、全国の店舗に設置されるめどがたった。新聞・雑誌はこぞって「これからはディスクの時代!」と伝えた。

賛否両論の議論の末に登場したディスクシステムであったが、発売初期はあっさりと市場を制圧するにいたった。

■1986年2月~4月……[孤軍奮闘]

この聖戦の緒戦が大勝利をおさめることができたのは、もちろんソフトの力あってのことである。ディスクシステムがここまで売れたのは、任天堂の英雄・宮本茂の功績が大きい。

◇『ゼルダの伝説』の威力
ディスクシステムと同時発売されたソフトは、『ゼルダの伝説』。従来のファミコンゲームのユーザーにわかりやすい操作方法と、起伏に富んだストーリーを、じつにうまく混ぜ合わせてできたゲームだった。

『ゼルダの伝説』は、ハイラル地方という架空のファンタジー世界が冒険の舞台である。この地には八個の「トライフォース」という神秘のアイテムが隠されている。プレイヤーは「トライフォース」を集め、主人公リンクは、悪の支配者・魔王ガノンと戦うのがゲームの目的だ。マップは地上と地下に分かれており、ともに敵が出現する。プレイヤーは、主人公リンクを操作して敵を倒さなくてはいけない。

このタイプのゲームは「アクションロールプレイングゲーム」と区分され、当時のパソコンゲームの世界では、ポピュラーなジャンルだった。「ドラゴンスレイヤー」(日本ファルコム)、「ハイドライド」(T&Eソフト)などがヒット作になっていた。だが『ゼルダの伝説』は、どのパソコンゲームよりもおもしろいゲームで、ファミコン+ディスクシステムはパソコンにまさることを、強烈に印象づけた。

もちろん『ゼルダの伝説』は、ディスクシステムの特徴であるセーブ機能をうまく使っていた。このゲームは一般のユーザーだと二〇から三〇時間かけてエンディングを迎えるようにできていたから、人々はじっくりと、冒険小説を楽しむようにして遊んでいる。

高価なディスクシステムを早々手にいれたユーザーは『ゼルダの伝説』に満足した。もちろん、遊ぶゲームが一本しかないから……といった消極的な満足ではない。「データのセーブができると、こんな物語風のゲームが遊べるのか」「メモリー容量がロムカートリッジの3倍になると、まるで別の世界に連れていかれたような体験ができる」――彼らは『ゼルダの伝説』のおもしろさもとともに、ディスクシステムのありがたみを肌で感じていくのだった。

■1986年2月~4月……[英雄の作戦]

『ゼルダの伝説』という作戦、宮本茂の知略は見事としか言いようがなかった。この知略は、ゲームプレイヤーを満足させただけではなく、ファミコン帝国内部に渦巻く、アンチ・ディスク派の批判の口を封じてしまった。

『ゼルダの伝説』は、ディスクシステムの長所をいかしたのと同時に、欠点をも吹き飛ばした。宮本茂という稀代の英雄は、揺れ動く市民感情を敏感に察知できる、有能な文官(シビリアン)でもあった。

◇読み込み時間を逆手にとるゲームデザイン
重ねて指摘されたディスクシステムの欠点に、データの読み込み時間の問題がある。この問題を『ゼルダの伝説』は、あっさりと解決してしまった。その手口は鮮やかだった。

『ゼルダの伝説』では、ゲームを解くために必要なアイテム――トライフォース――は、すべて地下の洞窟の奥深くの迷宮(ダンジョン)に隠されている。したがってトライフォースを探し求めるプレイヤーは、まずは洞窟の入り口がどこにあるかを見つけなくてはならない。そのためにプレイヤーは、手がかりとなる情報を土地の住人に聞き、マップ上の東西南北を探索するのだ。もちろん道中では、敵と戦いながらである。

そんな苦労を積み重ねて、プレイヤーはやっと洞窟の入り口らしき箇所を見つけたとしよう。たとえば、森の中のあやしげな一本の木の前。ここを洞窟の入り口と推理したプレイヤーは、木の前に立つ。プレイヤーはヒントの通りに、木を火で燃やす――。

すると秘密の入り口が、スッと画面にあらわれる。探し続けていた迷宮の入り口かもしれない? プレイヤーはおそるおそる、その洞窟に潜り込んでいく。

洞窟に潜り込んでいくその時――。
画面一転して黒くなり、「NOW LOADING」(データを読み込み中ですの意)の文字が表示される。ディスクシステムがデータを読み込んでいることを『ゼルダの伝説』は伝えているのだ。ディスクシステムの駆動装置に赤ランプが灯り、装置の内部ではディスクが動いている音が聞こえる。

アンチ・ディスク派の心配は無用だった。不思議なことに、この時プレイヤーは、データ読み込みの「間」にイラ立ちを感じたりはしなかった。それどころかプレイヤーは、うれしくてウズウズしているのだ。なぜなら、自分が探り当てたその入り口は、喉から手が出るほどに欲しいトライフォースに近づいていく正解ルートであることを、その「間」が教えてくれていたからである。『ゼルダの伝説』のトライフォースは、すべて地下迷宮で入手できるようになっていた。だから、ディスクシステムがデータを読み込んでいる「間」は、プレイヤーの推理が当たっている証明でもあったのである。

ゲームの遊び手は、「NOW LOADING」の文字を、「データを読み込み中です」とは読んでいない。それは頭の中で、「お見事! よくぞお前は入り口を見つけたな」と翻訳されて読まれていた。

『ゼルダの伝説』が高い評価を得たわけは、こんな工夫にもあった。データの読み込み時間という、ディスクシステムの技術的なウィークポイントでさえも、ゲームソフトならでは創造性で克服してしまったのである。

(つづく)

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